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直接聞いてみる

雀士: 
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直接聞いてみる
[player]どうしたの?
テーブルを挟んだ向かい側に座る。キイ、という椅子の音が、上の空だった一ノ瀬くんの意識を引き戻した。
[一ノ瀬空]あ、えっ、PLAYERさん?いつからいたの?
[player]今来たとこだよ、やっと手が空いたからさ。何も食べずにぼーっとして、今日のは美味しくなさそう?
[一ノ瀬空]あ、いや、とても美味しそうだと思うけど……なんていうか、そうじゃなくて……
[player]さては悩みがあるんだな。良ければ相談に乗るよ、なんとかしてあげられるかもしれないし。
[一ノ瀬空]そうだな……じゃあ、PLAYERさんは、魔法使い、吸血鬼、キョンシーの中から選ぶなら、どれが一番好き?
[player]えぇ!?
どこから来たんだその質問は!?と一瞬思考停止に陥ったが、すぐ目の前の雑誌に気付いた。これか?一ノ瀬くんの悩みの原因は!
[一ノ瀬空]コホコホ……あの、ごめん、何か勘違いさせちゃったみたいで。えっと……もしハロウィンのパレードをやるなら、キミはその三者の誰にお菓子をあげる?
[player]ハロウィンか、それなら……。
[player]吸血鬼ってロマンがあっていいよね、優雅な魔法使いも素敵だし……あ、かわいいキョンシーちゃんも捨てがたい……うーん……。
[一ノ瀬空]キミも選べないんだね……。
答えになっていない答えを出してしまって、一ノ瀬くんはまた俯いてキューブをいじり始めた。
[player]で、ハロウィン用の仮装を選んでるってこと?
[一ノ瀬空]うん……。今年のハロウィンは、学校で仮装コンテストをやるんだ。生徒なら誰でも参加できるし、家族や友達と一緒に参加してもいいんだって。もし優勝したら、特別な賞品が貰えるらしいんだ。
[一ノ瀬空]この間主治医の先生に聞いてみたら、最近の健康状態なら参加しても大丈夫って言われたから。
コンテストに参加するにも医者の許可がいるのか……一ノ瀬くん、想像以上に体が弱いみたいだ。
[player]つまり……その特別な賞品が欲しいってことか。
[一ノ瀬空]予測によれば、今回の賞品が新作SF映画のアートブックである確率は72%。さすがに欲しいよね。
[player]賞品の確率を予測できるのかよ……。じゃあ、さっきの質問もデータ収集のため?
[一ノ瀬空]あ、バレたか。うん、その通りだよ。あるデータによると、その三種類が最も好かれる可能性が高い仮装らしいんだ。
[player]やっぱりか……でも、せっかくのコンテストなんだし、好きなキャラクターの仮装とかでも良いんじゃない?
[一ノ瀬空]それもそうだね……。
一ノ瀬くんは何か思い出したかのように、キューブを目まぐるしく回転させ、ようやく緩み始めた眉間の皴もまた険しくなってしまった。何かまずいこと言ったかな……
[一ノ瀬空]好きなキャラクターであればあるほど、よりそのキャラの魅力を引き出せる……そういう話はよく聞くけど、そんな「精神論」よりはやっぱりデータの方が信頼出来ると思う……コホコホ。
[player]まぁね。で、一ノ瀬くんは結局どうするつもり?
[一ノ瀬空]みんながみんな33%の確率を出すから、どうしても決められなくて……。
[player]ほら、学問なき経験は経験なき学問に勝るってよく言うし、データとか想像だけで似合う衣装を見つけるのはけっこう難しいと思うよ。
[player]たとえ実際に三種類の衣装が目の前にあったとしても、実際に着てみないとどんな感じになるかはわからないし、ちゃんとお店で試着とかした方がいいと思うな。
[一ノ瀬空]でも……姉さんは今隣街に出かけてて、月曜まで帰ってこないんだよね……。
[player]ああ、それなら一緒に行ってあげるよ。
いくら大人びていると言っても一ノ瀬くんはまだ十三歳だし、こういう年相応なところもあってなんか助けてあげたくなるんだよな。
[一ノ瀬空]え?カフェのバイトとか……大丈夫なの?
[player]なんと、明日はちょうど休みだから、羽を伸ばしに街へ散歩でも行こうかなと思ってたんだよね。
[一ノ瀬空]そ、それじゃあ、明日このブティックの前で集合でどうかな。七海さんが勧めてくれた所だから、きっと何か見つかるはずだよ。
[player]いいよ、約束ね。
元気を取り戻した一ノ瀬くんが帰った後、書いてもらった住所をよく見ると……
[player]「魑魅魍魎」……って、これがブティックの名前?
なんだか嫌な予感がするなぁ。
[player]232号、233号……あ、一ノ瀬くん!ここが例のお店だね。
礼奈ちゃんが一ノ瀬くんにすすめたブティックは商店街の一番奥にあり、抑えられた色合いの外観も、周囲のアパレル店の中では最も地味だ。店名も出ていないし、よく見ないと見逃してしまいそうな「営業中」の黒板しか掲げられていない。
[一ノ瀬空]……看板もない店だったとは、道理でナビを使っても上手くルートが出ないわけだ。
と言って、一ノ瀬くんとその異様に古めかしいドアを開けた。
[???]あら。迷える子羊ちゃんたち、悪魔の故郷へようこそ。
その言葉は、黒板を爪でひっかくような音と、金属がぶつかり合うような音と共に私たちを出迎えた。と同時に、明らかに体温の低い指の感触が、私の腕を襲った。
びっくりして硬直した首を無理やり横に回すと、ぼんやりと青く光る「お化け」と目が合った。