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二人の巫女

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不思議な光景がまさに今、相原舞の目の前に広がっている。
「速攻の方が絶対いいにゃ! タンヤオこそ王道にゃ!」
「お前なぁ、そんな戦法しか出来ないから俺様にいつも逆転勝利されるんだワン。」
砂利が敷かれた古風な神社の境内。その真ん中に、現代的な全自動麻雀卓がポツンと置かれている。卓を囲んでいる釣り目でネコミミの巫女と、その対面のどことなく愛嬌のある大柄な犬男は、なにやら言い争いをしているようだ。
喧嘩しちゃだめ、と二人を止めようとした幼い舞だが、しり込みしてしまい踏み出せない。傍の祖父に助けを求めるも、いつの間にか遠くの鳥居の方まで歩き去ってしまっていた。
「どうしよう……」相原舞は小声で呟いた。いつも険しい顔で修業ばかりさせる祖父が、今日は珍しく優しく外へ連れ出してくれた。と思ったら、こんな喧嘩にたった一人で立ち向かわせるなんて。
「もしかして、これも修行……なの?」舞は服のすそを握りしめ、あわあわと辺りを見回しながら、この喧嘩をどうやって止めようかと必死に考え始めた。
「それにしてもかぐや姫のやつ遅いなぁ、二人だけじゃ麻雀出来ないワン」
「話を逸らすんじゃないにゃ! ワン次郎だって何回も私に負けてるくせに!」
怒鳴るネコミミの巫女を見て、舞はふと羨ましい気持ちが湧いてきた。同じ巫女なのに、その子は自分よりも派手でかわいい服を着ているし、思ったまま、大声で言いたいことを何でも言えるんだから。
「にゃ? この子……誰にゃ? ワン次郎?」
「こいつは……千月神社の舞じゃねぇか! しばらく見ないうちに大きくなったワン!」
「舞ちゃん、にゃ? いいところに来たにゃ、付き合ってもらうにゃ!」
「え、ええ~!?」返事をする暇もないまま、舞はネコミミの巫女に手を引かれ、麻雀卓の方に連れて来られた。
「あ、あの……二人が言っているタンヤオとか、舞はあんまり、分からないんです……。ごめんなさい……」
「謝らなくていいワン。巫女全員が、皆このネコみたいに毎日麻雀打ってる訳じゃないしワン。」
「魂天神社じゃ麻雀こそ修行にゃ!ほら、舞ちゃんも座って座ってにゃ。三人麻雀からやってみるにゃ!」
舞は祖父の顔を伺ったが、鳥居の下の祖父は手を振ってゴーサインを出している。ワン次郎に教えられるまま手牌を恐る恐る揃えるが、震えた手が牌にぶつかり、地面に落としてしまった。慌てた彼女は急いで拾おうとしたが、頭を雀卓の角にぶつけてしまい、ゴンと大きな音を立てた。
「痛そうにゃ……ゆっくりで大丈夫にゃ。」
「あ、ありがとうございます……」麻雀について、まだ何が何だかわからない状態の舞だったが、頭の痛み以上に喜びを感じていた。
いつもの退屈な修行とは違う――誰かと一緒に遊ぶ修行は、楽しかった。
その日、三人は夕暮れ時まで麻雀を打った。舞は終わり際になってようやく麻雀のルールを覚えて、今度また遊ぼうと二人と約束した。
夕日に照らされる朱色の鳥居と、手をぶんぶん振って別れを告げる一姫の姿は、舞の目に焼き付いた。
「おじい様、なぜ、舞を魂天神社に連れて行ってくださったのでしょうか……?」帰り道、相原舞は興奮冷めやらぬといった弾んだ声で祖父に聞いた。
「お主らは同じ世界の人間じゃ、仲良くしておいて損は無いからの。舞よ、お主はあの小娘を気に入ったかのう?」
「はい、でも……一姫ちゃんは、やっぱり舞とは違うと感じました。」
舞は一姫の自由奔放な性格に憧れると同時に、同じ巫女なのになぜこうも違うのかと疑問に思った。
「……。魂天神社と千月神社はお役目が違うのじゃ。付き合いを続ければいつかわかる。」祖父はしばらく黙り込んでから、そう答えた。
「いつか……。」舞は祖父が何を言いたいのかあまり理解できなかったが、いつかまた魂天神社に遊びに行けることだけはわかり、思わず笑みがこぼれた。