何でまた人のプライバシーを侵害したの!?
[玖辻]こんなの普通だろ? 情報屋たるもの、自分のことも相手のことも知っておかなきゃな。俺はアンタの誕生日だけじゃなくて……
彼は少し近寄り、声を抑えてこう言った。
[玖辻]旦那が興味深い「いいね」リストを作ってることも知ってる。中のモンを共有してくれてもいいんだぜ。例えば……
光の速さで手元のブラックカードで彼の口を塞ぎ、素早く周囲を見渡した。
この場には、先ほど私にカードを渡した少女が無言でスマホをいじっている以外に、部屋の隅に彫像のような人が二人立っていた。彼らは私達をまるで見ていないかのように振る舞っている。私が法に触れるような得物を持ち出して玖辻に飛び掛かりでもしない限り、彼らは私に干渉してこないだろう。
[玖辻]ペッペッ……確かに俺は金が好きだが、そうなんでも口に突っ込むんじゃねぇよ。
[玖辻]旦那、安心しな。俺は分をわきまえた情報屋だ。勝手にアンタの情報をリークしたりしないさ、高値で買う奴がいない限りな。
[player]自分が何を言ってるか分かってます?
[玖辻]当然、完璧に秘密にしてやってもいいぜ。旦那が色々と俺を手伝って、そのうちに友達になれば、友人としてアンタのあらゆる情報を守ってやるよ。
[player]脅しで得た友情なんて、長続きしないでしょうね……
[player]まぁいいや、これ以上は追及しないでおきます。明日の任務の段取りについて打ち合わせしましょうか。
[玖辻]段取りについては心配いらねぇぞ。この手の任務に慣れてるノアを同行させっから。
彼が示す方を見ると、先ほど私にカードを手渡した少女がいた。彼女はノアというのか。自分の名前を呼ばれたのが聞こえたようで、彼女は顔を上げて軽く頷くと、スマホに戻った。
[玖辻]無口だが、「ストリクス」の屋台骨の一人だ。能力に関しては全面的に信頼していいぜ。
[player]はぁ……一飜市の子どもって、みんな見かけによらないし、能力も年相応の範囲を超えてますよね。
[玖辻]温室の花のように守られて育つ幸せを、誰もが得られる訳じゃねえからな。
[玖辻]おっと、またしてもうっかり情報を漏らしちまった。しかも「ストリクス」の核心に迫る情報を……あー、どうやら旦那にゃこれからどしどし仕事してもらわんといけねぇな。
[player]ええ? どうしてこんな押し売り紛いのことをするんですか。私はこんな情報別に知りたくはなかったんですけど!?
[玖辻]けどよ、正直、ノアが明日手伝ってくれるって聞いて安心したんじゃねぇの?
[player]それは、そうですけど……
[玖辻]だろ。出どころなんて重要じゃない、アンタの助けになるんならそれは有効な情報なんだよ。
[玖辻]よし、説明は終わりだ。あとは明日だな、アンタの働きに期待してるぜ。
時間を見ると、確かに随分と時間が経っていた。知るべき情報も、知りたくなかった情報もたくさん手に入った。家に帰って明日の準備をしないと。
今回、玖辻はあの従業員を呼ばずに自ら私を見送るつもりらしい。この事務所の壁には、なんと、よく見ないと見つけられない隠し扉があったのだ。
玖辻が隠し扉を開けると、向こうにはこの部屋とレイアウトが全く同じの部屋が広がっていた。隠し扉の位置まで同じになっている。
こうしてマトリョーシカのようにそっくりな部屋を三度ばかり抜けると、目の前がぱっと明るくなった。この明かりは照明ではなく、ガラス越しに差し込む日光のものだ。私達は、優雅な内装の花屋に出ていた。
店内には様々な花が整然と並べられていて、二、三人の客が店員と話しながら思い思いに花を選び、目を楽しませるような花束を作っている。他のお店と比べて、こうした店は静かで心地がいい。でかでかと「非常口」と書かれたドアから出てきた私達を気に留める人は誰もいない。
花屋を出ると、目の前は商店街だった。人々が賑やかに行き交う様子に、私は思わず少し感動した。
[player]スパイ映画は嘘をつきませんね。
[玖辻]どうやら、スパイ映画に想像力をいくらか制限されてるらしいな。あらかじめ複数の逃げ道を用意しておくのは情報屋の基本だぞ。もっと深く知りてえんなら、実力と金を揃えて俺達に接触するんだな。
[player]そこまで知りたくないです……
[玖辻]この花屋を覚えておくといい。「ストリクス」の助けが必要なことがあったら、ここで青いアヤメを三本買って、ワインレッドのリボンで束ねるよう店員に伝えろ。
[player]そんなに簡単なんですか? もし他の人がたまたまそうやってリクエストしちゃったら?
[玖辻]旦那よォ、自分の客ンことくらいわかってるさ。これはアンタが俺に会いたいというサイン、それ以上の意味はない。
[player]へぇ。
[玖辻]あんまり映画を見過ぎんなよ、旦那。
直々に私を見送ってくれたし、色々説明してくれたから、言い争うのはやめておこう。立ち去ろうとした時、玖辻は私を呼び止めた。振り返ると、彼は太陽の光の下で、若い男性特有の生き生きとした表情を浮かべながら、冷たい言葉を放った……
[玖辻]旦那、もう行くのか? 明日の任務に失敗した場合、賠償させられるかどうかとか、全然気にならないってか?
[玖辻]「幾度春」でかかる金は相当な額だ。もし任務に失敗したら、入場料を含む経費は自己負担といくか?
水清ければ魚棲まず、人クズであれば敵なし。
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