たった一人で敵陣に切り込んできた、相手を甘く見ている……これらの要素を合わせて考えれば……
エイン、チャンスだ!
PLAYER、チャンスだ!
……同じことを考えてたみたいだね。
ゼクスが単独行動してるうちに、あいつを片付けようぜ。
でも……
ん?
きつい言い方になるかもだけど、一対一で戦うってなったら、エインはゼクスに勝てないよね……?
……
沈黙は肯定ともとれる。私は少し萎縮してしまい、なんとか取り繕う言葉を探そうとした。しかし、エインは予想とは裏腹に笑い出した。
誰が一対一で戦うって言った? 君がいるだろう?
私? ゼクスには麻雀でしか勝ったことないけど、それで彼より強いってことになるのかなぁ……
確かに、ゼクスは近接の白兵戦には相当長けてる。だけど、銃を使うような遠距離の戦いは得意じゃない。無駄撃ちの多さがその証拠だ。
弾を撃ち切ったら、きっと得意な接近戦に持ち込もうとするはずだ。けど、それはむしろ俺達にとってはチャンスだ。
俺があいつとやり合う。君はここで、遠くからあいつを狙撃してくれ。
なんかすごいプレッシャーなんだけど……弾が外れないことを祈るよ。
エインとの作戦会議が終わる頃、遠くで響いていた銃声も段々と落ち着いていった。エインは人差し指を立てて静かにするよう合図し、狐の耳を動かして周囲の音を聞き取っている。
エインがダミーナイフを手にしたのを見て、私はレーザー銃を構える手に力を込めた。そして、心の中でカウントダウンを始めた。
5……4……
PLAYER、そんなに気負うことないぜ。
3……
君のこと、信じてる。
2……
だから、俺のことも信じてくれ。
1……
俺達は絶対勝つ!
エインは弓から放たれた矢のように飛び出し、縄張りを侵された野獣の如く、自ら襲撃者に向かって攻撃を仕掛けた。
もちろん、ゼクスも黙ってやられるはずもなく、すぐ応戦した。優秀な狩人同士の戦いは、勇猛さと野性に溢れている。土埃が舞い、木の葉が舞い落ちる中、スコープから見えるのはおぼろげな二つの影のみ。どちらがエインかは、毛の色で判断するしかない。
でも……タンジェリンオレンジとブラウンじゃ、色が近すぎるでしょ!!!
ふぅ……落ち着け私。万が一エインに当たったら大変だ。
腕のポイントカウンターは、絶えることなく震えながら赤い光を放っている。ゼクスと交戦しているエインは、未だ優位には立っていないようだ。呼吸を整え、半ば無理やりに自分を落ち着かせ、再びレーザー銃を構えた。引き金に指をかけ、いつでも撃てる状態だ。
あれ? エインが、こっちを見てる?
スコープ越しに、エインが、こちらを見ながら微かに唇を動かすのが見えた。
もしかして、撃てって言ってるのかな? でもゼクスがどこにいるかまだ……どうすれば……!
「パンッ!」頭で考えるより、体が先に動いてしまった。エインが言っていることを理解した瞬間、指が引き金を引いていた。二人は砂埃に包まれていて、自分の攻撃が命中したか全くわからない。
当たった? くっ、すごい反動だ……エインに当たったりしてないよね……?
青チーム一番の選手、脱落です。
! 成功した……?
チーム分けでは、こっちは赤だった。となると、脱落したのはゼクスで間違いないだろう。
やったなPLAYER! 一発でヘッドショット決めるなんて、こいつは大きな一勝だ。
いやいや、エインがちゃんと指示してくれたからだよ。
君が俺を信じてくれたからってのが大きいけどな。俺が撃てって言ったとき、ゼクスはまだスコープの中心には来てなかっただろ?
そうだね。
おい、テメェら仲間同士でお世辞言い合って楽しいか? 俺様はまだここにいるんだ、忘れてねぇだろうな! 全部聞こえてんぞ!!
負け犬の遠吠えは見苦しいぜ。
チッ、どっちが最後に勝つかはまだわかんねェだろ。俺の役割はあくまで時間稼ぎだからな。今頃、ハンナの奴がとっくに宝を手に入れて陣地に戻ってる頃だろうさ。
そうなりゃ今度は、テメェが俺様を兄貴と呼ぶ番だからな!
エイン、確かにゼクスにだいぶ足止めされちゃったよ。ゲーム終了まであと二十分だ。
ハンナの素早さを考えると、今まで宝が発見されたって知らせがないってことは、あっちも何か問題が起きてるんじゃねーかな。
え? でも、森の中で狩人を阻めるものなんてあるかなぁ?
行ってみりゃわかんだろ。
そのまま、お宝が隠れているエリアにたどり着くと、宝自体は確かにハンナが手に入れたらしいとわかった。しかし、地面に残された足跡は乱れていて、ハンナがどこに向かったのかはエインにもわからないらしい。どうすることも出来ず、私たちは自分の陣地に戻ってアナウンスを待つことにした。
時間となりました。ゲーム終了、今回は引き分けとなります。
ハンナがお宝を見つけたのに、どうして引き分けなんだろう?
エインと一緒に待機エリアに戻ると、全身ツタだらけのハンナがいた。どうやら、ハンナは直感を頼りに宝を手に入れたはいいが、道に迷ってしまったらしい。
PLAYER、よく聞け……森で方向感覚を失うってのは、狩人にとっちゃ一番やっちゃいけねぇことだ。
エインの声はとても小さかったが、それでもハンナのモフモフとした耳がぴくりと震えたかと思うと、ぺたんと寝てしまうのが見えた。
ハンナとゼクスは「帰って鍛練する」と言ってその場を去り、私とエインは気分よく帰路についた。道中、行き交う車の排ガスを吸ったエインは何度もくしゃみをし、先ほどまでいた美しい大自然の余韻に浸っていた私も、すぐさま現実に引き戻されてしまった。
でも、残念だな。
ゲームに勝てなかったから?
いや、そうじゃなくて。あそこはすごく自然豊かで綺麗だったし、ああいう緊張感も結構気に入ったから。
なんだ、そんなことか。ゲームの前にした話、まだ覚えてるか?
エインの故郷の話?
ああ、君さえ良ければいつでも行けるぞ。
ひなたぼっこも、もちろん狩りだって出来る。本物の大自然ってやつを見せてやるよ。
振り返ってエインを見ると、まるで答えを待つかのようにエインもこちらを見つめていた。
それじゃあ、いつ行くか、計画を立てよう。
約束な!
うん!
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