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「ヴーッヴーッヴーッ……ヴーッヴーッヴーッ」3-1

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「ヴーッヴーッヴーッ……ヴーッヴーッヴーッ」
慣れ親しんだ睡眠時間に、聞き馴染みのあるバイブレーションのリズム。
私は寝返りを打ち、ある問題についてぼんやりと考え始めた。若き雀士は繰り返し直視したくない現実の夢を見るか?
だが絶えず鳴り続けるバイブレーション音によって、これは現実かもしれないと徐々に気づいてきた。確かに、誰かが電話をかけてきていた。昨日と同じようなしつこさで。
寝ぼけまなこで起き上がり、着信画面を見ると、非通知と表示されている。
スマホに表示された時間は「6:06」だ。
はあ……この二日間、起きる時間が他の人より遅いせいで、一飜市で暮らすのに向いてないのではと感じてしまう。
電話に出る前に、電話が切れた。「ツーツーツー」という通話終了の音に続いて、一通のショートメールが届いた。
[非通知(ショートメール)](ショートメール)6:43、「幾度春」にて待つ。
ショートメールと共にルートマップも送られてきた。厳密に言えば、私の家から「幾度春」までのルートが書かれたマップだ。そこには乗り換え場所が全て明記されていて、「6分以内に地下鉄1番線から10番線まで移動」など、歩く時間まできっちりと決められていた。
ルートマップの一番下には、目を引く赤い文字で「!!タクシーは呼ぶな!!家から「幾度春」までの五ルート!!【全て渋滞】!!」と書かれている。
最近の自分の活動範囲から判断するに、このショートメールは「ストリクス」の人間が送ってきたのだろう。何故私の電話番号を知っているのかといったことについては、もはや不思議に思わなくなっていた。それでなくとも最近は不動産や学習塾、銀行……更には結婚相談所などから、夥しい数の電話がかかってきているのだ。その度に全世界に自分の電話番号を知られているような錯覚に陥る。