私は今、落下している。
「落ちる」という感覚が、こんなにも矛盾したものだとは思っていなかった。両手両足を大きく伸ばした自分の体はまるでひとひらの葉のようで、そよ風程度の弱い風でも簡単に影響を受けそうだ。
しかし、その風がいくら強くなったとしても、私の体を持ち上げることはできない。ただ私を「飛んでいる」気分にさせるだけだ。私がいくら頑張ろうとも忌々しい万有引力に引っ張られ、下へ下へと重い空気の海をかき分けながら沈んでいく。
せいぜいビルの上の遊園地でやってるバンジージャンプくらいだろうな、と思ってた飛び降りる前の自分を殴りたい。
比べる次元のことではない。無重力状態の中、麻痺したままだった聴覚が段々と戻ってくると、風のささやく声が未だかつてない存在感をもって脳に響く。
……もとい、ヘッドセットをしているので、ささやきに聞こえた風の声は、実際は風の咆哮と言っていいものだっただろう。
そしてこの音すらも突き抜けて私の耳に届くのは、私を後ろから抱きしめているこの男の声だ。
[ジョセフ]Are you OK!?Partner!
正直に言うとOKな訳がない。でもその声を聞いて、少し安心した。
そう、私は今ジョセフと四桁の高さの空から落ちている。今回の冒険では、目的地に飛行機やヘリが着陸できる場所がなかったので、ジョセフの発案で二人でスカイダイビングして降りることにした。
[ジョセフ]落ち着いてるじゃないか!My Partner!大声で叫び散らかすんだろうと思ってたがな!
落ち着いてる訳ではない。このスピードで落下してる時に口を開きでもしたら、キンキンに冷えた風を喉に詰め込むのが関の山だ。だから、叫ぶどころかまともに口すら開けないってだけ。
そして目を閉じたのも失敗だった。何も見なければ落ちる恐怖が薄れると思ってそうしたのだが、暗闇の中で無重力状態を味わうのは、ただ墜落するのとはまた別の、そしてそれ以上の恐怖があった。
[ジョセフ]ヤッホー!ほら見ろ、この美しい空の景色を!
見ろって言われても……。少しだけならいける……か……?
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