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立直しない

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エンディング: 

[選択肢] ・立直する ・立直しない [プレイヤー]七筒を切って黙テンします。 [サターン]詳しい理由を聞かせてくれないか。 [プレイヤー]対面が1度鳴いていて、既に3枚連続で中張牌を捨ててますから、恐らく聴牌してます。今立直すると危険かもしれません。しかも、もしこの後六萬を絡められたら、より良い手に変えられますし。 [-]サターンさんはしばらく沈黙し、それからブツブツ独り言を言い出した。 [サターン]なるほど、そういうことだったか……。 [プレイヤー]はい? [サターン]失礼、とある友人を思い出してな、少しぼんやりしていた。 [プレイヤー]その人も「何切る問題」をやったんですか? [サターン]隠していた訳ではないのだが……君が来るほんの少し前に、彼はここを去ってしまったのだ。 [サターン]ついさっき、彼はちょうど今君が座っている席に座り、全く同じ問題に取り組んだ。その時、彼は君と同じ選択をしたよ。しかしその友人はその訳を話したがらなくてな、何度も尋ねたが具体的なことは何も言わなかった。そして、逆に私にこう尋ねた。 [サターン]「門前での黙テンは悪いか?」と。 サターンさんは笑みを引っ込めて「友人」を真似てみせたが、即座に耐えられなくなり、手をひらひらと左右に振った。 [サターン]いやいや、私があの言い方を真似ても様にならんな、ハハ。 [プレイヤー]特徴はきっと捉えてますよ。私の友達にも、思い当たる人が一人います。 [サターン]ほう? [プレイヤー]その友達も、黙テンが好きです。彼は、「門前での黙テン……それは、目標の近くに潜伏し、チャンスを伺う……一番確実な勝利法だ」って言ってました。 [-]頭の中にA-37を思い浮かべて言ってみたけど、思ったより似なかった。良くて8割くらいだな……。 [サターン]ハハ、君の友人も大変面白い人物のようだな。 [-]面白い人、かなぁ? どこで判断するかにもよるな……。彼が誰かと話す時はいつも、「沈黙は金」って感じで、全然喋らないし。 [プレイヤー]お話の感じだと……サターンさんがここ何日か待っていたお客さんって、その人だったんじゃないですか? [サターン]そうだ。しかし彼は仕事が忙しくてな、今日になってようやく会えた……それも、ずいぶん慌ただしいものになってしまったがね。 [プレイヤー]それは残念ですね。こんなによく似た考えの人にはなかなか会えませんし、もし会えたらみんなで一局打てたらいいのになぁ。 [サターン]それもいいな。恐らく彼は、もうしばらく一飜市に留まるだろう。関心を引く人間を見つけたらしいからな。まぁそのせいで、こちらはなかなか次の約束を取り付けづらくなってしまったがね、ハハ。それでも、いつか必ず一緒に打てるチャンスが巡ってくるはずだ。 [-]サターンさんは笑って見せたが、レンズの奥の瞳は、日差しに遮られてよく見えなかった。 [サターン]そういえば、君が今日来たのは、前に君が話してくれた件に進展があったからではないかと思ったのだが、違うかな? [-]サターンさんに促されて、やっと今日の訪問の目的を思い出した。そこで、四貴人の詳しい情報や、彼が気にしていた「魂天神社の麻雀大会」のより詳しい情報について話した。サターンさんは真剣に私の話を聞きながら、中指の第二関節でコツコツとテーブルを叩き、物思いにふけっている様子だった。 [サターン]四貴人について全くイメージが持てないままだったが、君が名前を教えてくれたお陰で、やっとそれぞれが一飜市にいる大物たちだと思い至ったよ……。とはいえ、本人たちが四貴人の称号を名乗ったことは今まで一度も無いから、すぐにイコールで結びつけるのは難しいな。" [プレイヤー]そうですね、西園寺一羽と知り合うまでは、私も伝説の四貴人がこんなに若く美しい女性だとは思いませんでしたし。でもよく考えてみると、全く違和感を感じないんです。まるで…… [サターン]彼女は生まれたその時から四貴人となる運命にあったかのようだった。 [プレイヤー]はい、そうなんです。 [サターン]ハハ、しかし方向性さえ決まってしまえば、我々はそれこそ芋づる式に伝説の真相が掴めるだろうな。 [-]サターンの噂好き魂がメラメラ燃え上がっているのを感じる。まあ、すぐそこまで迫っている真相を追わずにいられる人なんていないよな。 [サターン]執事に頼んで、祝杯のための酒を用意させた方が良さそうだ。 [-]サターンさんのお話で、用意したオレンジソーダをまだお渡ししていないことに気付いた。あわてて取り出すと、保冷バッグに入れていたお陰で炎天下の影響を受けておらず、外気に触れたガラス瓶には、瞬く間に細かい水滴がついた。 [-]サターンさんはその様子を見て、手を叩き、少し離れた所にいた執事を呼び寄せた。執事がクロスで瓶についた水滴を拭き取り、私の手に返す。これまでの訪問では、執事が控えているのを見たことがなかったので、思わずまじまじと見てしまった。 [-]執事の背後にある金属製のラックの上にある、黒い木製のトレーに空の瓶が2本置かれているのを見つけた。遠すぎてはっきりとはわからないが、その形は、私が今持っているオレンジソーダ専用の瓶にそっくりだった。 [-]「エテルニテ」はお店のカラーを出すために、備品はほぼ全てオリジナルのものを使っている。この瓶も、礼奈ちゃんの叔父さんが一生懸命デザインしたもの。この時突然、小鳥遊さんの言葉が脳裏をかすめた。 [小鳥遊雛田]“Aさんなら、朝お店を開ける時に一度来て、飲み物を1杯買って行ったよ~。” [-]A-37が来た場所とはここではないか? しかし、彼はこの前、確かにデリバリーの仕事を嫌がってたんだよな……。上の空といった様子の私を見かねて、サターンさんは私に声を掛けた。 [サターン]プレイヤー? [プレイヤー]え? [サターン]大丈夫か、ぼうっとしているようだったが。 [プレイヤー]いえ、何でも……つい長くお邪魔してしまったので、みんなの仕事に支障が出てないか、ちょっと心配になっちゃって。 サターンさんに本当の理由は話せかった。私ひとりの憶測に過ぎないし、それに、彼らが本当に知り合いだったとしても、軽々しく2人の関係について聞くのは失礼だ。 [サターン]申し訳ない、君が仕事に戻らねばならないのを失念していた。君と話しているといつもこうだ。思わず時間を忘れてしまうよ、ハハ。 [プレイヤー]私もです、サターンさんとのお喋りは本当に楽しいですから。 [サターン]本当か? それは非常に光栄だ。もし良ければ、「エテルニテ」での勤めが終わった後も、時々ここに来て、今日のように共に語らってくれないか。 [サターン]やはり、君は一飜市で一番の、正真正銘の友人だ。 [-]サターンさんの口ぶりには、嘘があるとはどうしても思えない。彼の交友関係は、あまり良く知らない。けど、こういう社会的地位が高い人には、きっと自分ではどうしようもないことがたくさんあるんだろうな。 [-]なら、どの勢力にも属していない私は、彼にとっては最も「無害」で、最も構える必要のない人間だ。だから、機会があればまた会いに来よう。 [-]私は笑って頷き、彼の別れの眼差しに見送られながら、別荘を後にした。 [-]夜帰宅し、家の中を見回した。屋根裏部屋の明かりがついていないのを見て、ハッと気が付き、あわてて駆け上がる。 [-]さようならとも、いつ戻るとも、何も言わないまま。屋根裏のテーブルの上、きっちりと置かれたお金を見た時、直感した。A-37が出て行ったことを。 [-]このお金の厚み……。計算違いでなければ、彼がこの夏「エテルニテ」で働いて得たバイト代ぴったりだ。 [-]A-37の行きそうな所について頭を巡らせたが、わかったのは、彼について知っていることがあまりにも少ないこと、彼はミステリアスな「お客様」に過ぎず、自分がいた痕跡は一切残さなかったこと、それくらいだった。今ここにあるベッドも、皴一つ見当たらないほど綺麗に整えられている。まるで、ここで誰かが眠ったことなど一度もなかったかのように。 [-]私はお金を全て封筒に戻して、ベッドサイドの引き出しに入れた。いつになるかはわからないけど、彼は絶対戻ってくる。人と人との絆は、そう簡単には消えたりしないから。