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彼の望み通り、賠償すべきか問い詰める

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顔を上げて空の色を見る。時間は……まだ早い。 私は長いため息を吐き、一飜市の善良な市民はむやみに怒ったりしないのだと自分に言い聞かせ、彼に向き直った。 [player]それ、本気じゃないでしょう? [玖辻]ちょっと聞いてみただけさ。まぁ主に、旦那の早く帰りたくて仕方ねぇって顔が面白くなかったんでね。 [player]……私の礼儀も、持ってあと三十秒ってところですよ。 [玖辻]けどま、せっかく旦那が真面目に聞いてくれたんだ、俺も真摯に答えよう。そう、その通り、賠償させるつもりだぜ。 [玖辻]でも、俺はまた一つ新たなアイデアをひらめいた。俺達で盛大な賭けをしないか? 旦那が明日運よく、正しい花、つまり東城玄音を示す花を競り落とせたら…… [玖辻]つまり、アンタが任務をやり遂げたら、全ての費用を持ってやる。 [player]三十秒経ちました。失礼ですけど……今ならまだ取引から降りられますか? [player]こういう運試しは危険すぎますから。万が一巨額の借金を抱えたらただの骨折り損ですし。 [player]それに……「なんの情報もない中で正しい切り花を競り落とす」ことが「東城玄音から使える情報を聞き出す」ことよりも簡単だとは全く思えません。 [玖辻]ダメだ。旦那は秘密を知り過ぎた。今ここで降りるのは遅すぎるぜ? 「ストリクス」は無関係なヤツをわざわざ育てたりしない。 この時の玖辻は、本当に映画の悪役そっくりだった。自分自身が、おやつを全部盗られた一姫のように弱々しく、哀れで無力な存在に思えてくる。 [player]私……がんばります。 [玖辻]それでいいんだ。メリットを考えてみろよ。麻雀をやりに行くとして、もし天和純正九蓮宝燈を引いたら? 人は夢を抱くもんだ。 九蓮宝燈の伝説を考えると、天和なんて役はあまり作りたいと思わないのだが。 ますます生き生きとしてくる玖辻の笑顔に見送られ、私は踵を返して重い足取りで家へと向かった。気持ちはどん底だ。 「ストリクス」を出て帰宅し、ネットで「幾度春」に関する資料を探した。そこは四貴人の一人である東城玄音がいる高級置屋で、披露される歌や踊りはどれも素晴らしく、中でも優れた芸妓達は大金を積んでもなかなか会えないという。 特に責任者である東城玄音はもう何年も三味線を演奏していないが、かつてその音色を聞いた者は皆しばらく余韻に浸って抜け出せないほどだったらしい。残念ながら今はもう聞くことが出来ないようだ。 コメント欄にあった一件のコメントが目についた。「『幾度春』で東城玄音に会うチャンスを伺うより、彼女が持っている麻雀会館に行った方がいい。彼女に麻雀のテクニックを指導してもらえるかも」 あるアイデアが浮かんだ。明日、正しい切り花を問題なく競り落とすことが出来なかったら、麻雀会館に行ってみよう。 いずれにせよ、私は麻雀が大好きなのだ、心からね。