You are here

佳奈ちゃんに身を隠せる所に行くよう提案する

jyanshi: 
categoryStory: 

佳奈ちゃんのマネージャーさんはこの場で待つよう言ったけど、興奮したファンがいつ私達の所を襲撃するかわからない。 会館のホールでも、何人かの情報通がコソコソこちらを伺っているようだ。ただ、常連同士のしがらみに阻まれて、まだ写真を撮るには至っていないらしい。 [player]ちょっと面倒だな…… どうにもならなくなっていると、背後から手が伸びてきて私の手を捕え、何の説明もなく外へと走り出していった。 [player]ま、待って……佳奈ちゃん? [藤田佳奈]ん? キョロキョロと街の方を見てたのは、私を連れて逃げるつもりだからじゃなかったの? [player]そうだけど、マネージャーさんが…… [藤田佳奈]イベントで遠出すると、同行してたマネージャーさんには、しょっちゅう事務所からいろんな用事で電話がかかって来るんだ。大抵は私も一緒に残業するんだけど、あの人時々事務所の要求を断るの。「将、外にあっては、君命も奉ぜざるあり」だってさ。 [藤田佳奈]うーん……私も今どうするのが最善なのか分からないけど、ファンさんはきっと私にとっていい選択をしてくれるって信じてるよ。 [藤田佳奈]だからPLAYERさん、私をここから連れ出して? 目の前の少女は、私の選択を既に見通しているかのように笑い、私の手を取った。この手を放す気はさらさらないようだ。 人から全幅の信頼を寄せられるというのは、なんて幸せなことなんだろう。私はもう迷うことなく佳奈ちゃんに笑みを返し、一緒に会館を後にした。 [player]行こう。人が少ないところを見つけてしばらく隠れよう。その後マネージャーさんに連絡しようか。 私と佳奈ちゃんは道中ずっと大人しくしていて、人通りの少ない道を選んで進んでいたのに、それでも少女の美しさは人々の注目を集めてしまった。 どこに行こうと、誰かが私達の居場所をCatChatに書き込み、リアルタイムで更新している。だから私達は一ヶ所に長く留まることは出来ない。 しばらく「かくれんぼ」を続けるうちに、さすがの佳奈ちゃんでも体力の限界に近づきつつあった。 [藤田佳奈]はぁ……はぁ……これからお出かけする時は絶対に変装するって誓う! それから、黒幕がわかったら、その人を競歩デスマーチの刑に処してやる~! [player]マネージャーさんから全然連絡が来ないな。もしかしたら何かに時間を取られてるのかも。どうやらしばらくの間は、頼れるのは私達だけみたいだね。 [藤田佳奈]うぅ、何かいい方法がないかなあ? [player]見て、さっき見つけたんだけど……アンチ達が動かぬ証拠って言ってた、「新しい恋人とのショッピング写真」だよ。 [藤田佳奈]ヘ? この、風で乱れた私の髪を整えてくれてる人って……ファンさんだよね? ってことは、この人達が言ってる「新しい恋人」って…… [player]あー、私ってことになるね。 [藤田佳奈]うーん……それなら、もしかして…… [player]ん? 佳奈ちゃんが小声で何かつぶやいているのを聞こうと耳を近づけると、普段は快活で大らかな彼女が突然顔を赤らめ、照れながら話題を逸らした。 [藤田佳奈]あ、えっと! 私の推測通りなら、この写真は半年くらい前に二人で出かけた時に撮られたものだね。後ろに写ってるこのお店で「W・I・N」のデビュー曲がかかってたから、よく覚えてる。 [藤田佳奈]あのお店はここからあまり離れてないし、見に行ってみる? [player]そうだね、このまま隠れててもしょうがないし。マネージャーさんが来るまでに、少しでも多くの情報を集めよう。 佳奈ちゃんの記憶と現場を照らし合わせたことで、あの写真が商店街のスポーツ用品店で撮られたものだとわかった。 この発見に私達はテンションが上がり、慌てて店主さんに聞き込みをしたが、その結果は私達を大きく失望させるものだった。 [店主]お客さん、今店にお客が少ないのは、平日で会社帰りの人もまだいないからだよ。 [店主]この商店街は、一飜市で一番賑やか……とまではいかないが、他にはないウリがあるからまあまあ評判でさ。毎日大勢のお客さんが行き交ってる。 [店主]今日の午前中の客とかなら多少はわかるが、数ヶ月前となるとまったく思い出せないな。 [player]そうですか、ありがとうございます…… [藤田佳奈]うーん……これからどうしよう? [player]マネージャーさんの助けを待つしかなさそうだな。 私は首を横に振り、佳奈ちゃんにごめんの視線を送った。収穫もなく引き返そうとした時、店主さんが突然佳奈ちゃんの名を呼んだ。 [店主]か、佳奈ちゃん!? [藤田佳奈]入ってからずっと後ろ向いてたのに、今の一言だけでバレちゃうものなの? [player]それだけ佳奈ちゃんは魅力的だってことだよ。 [店主]佳奈ちゃん、ファ、ファンです! 円盤全部持ってるし、CMしてる商品だって一通り買ってるよ! はぁ……推しアイドルに会えるなんて、本当に驚いた! 俺は子供の頃から君の歌を聴いて育ったんだ! [player]子供の頃からって……あははっ。 店主さんは少なめに見積もっても三十代くらいに見える。佳奈ちゃんの歌を聴いて育ったというのは大げさだろう。彼は明らかに興奮で我を忘れている。 相手が自分のファンだと分かると、佳奈ちゃんは走り回った疲れをものともせず、すぐに笑顔を見せた。 [藤田佳奈]「子供の頃から」応援してくれてありがとう! 私、もっと頑張っちゃうね♪ [店主]佳奈ちゃん、例の写真のことでここまで来たんだよね? もしかしたら力になれるかも。 [player]でも、さっきは…… [店主]確かに、その時店にいたお客さんについては覚えてないけど、この店には高画質の監視カメラがあって、六ヶ月分の映像が保存されてるんだ。 [店主]佳奈ちゃんが必要なら、すぐ映像を用意する。二人で好きに調べていいぞ。 [player]店主さん、ありがとうございます。 [店主]いやいや、いいんだよ。佳奈ちゃんの力になれて光栄だ! 店主さんのおかげで、私達はすぐに監視カメラの映像から疑わしい人物を割り出せた。 その人物はごく普通のスポーツウェア姿で、キャップをかぶり、サングラスとマスクという、見るからに夏向きではない格好をしていた。加えて、彼は望遠カメラを手にしており、接客しようとする店員さんを無視して、ショーウィンドウの外に向かってシャッターを切ることだけに集中していた。 私はスマホで監視カメラ映像を録画し、すぐにマネージャーさんに送った。 [藤田佳奈]この人が今回のスキャンダルの元凶みたいだね。 [店主]こいつ……見たことあるな。 [藤田佳奈]店主さん、この人知ってるの? もしかして常連さん? [店主]いやいや、佳奈ちゃんを傷つけるようなやつがうちの常連なわけないだろう! [店主]ただ……君達が来る前に、映像の奴と似たような格好をしたのが店に来たんだ。電話で「これから映画館の近くでだれそれと会う」って自慢げに話してるのを聞いたよ。 [店主]何か買う見込みはないなと思ってあんまり気にしてなかったから、そいつが映像のと同一人物かははっきりとしないが……。 [藤田佳奈]大丈夫。力になってくれようとしただけで十分ありがたいよ。 [店主]いやいや、当然のことをしたまでさ。 「ピロリン♪」着信音と共にスマホが振動し、アイドルとファンのお世辞合戦を遮った。マネージャーさんからのショートメールを開くと、大量のメッセージが目に飛び込んできた。 【マネージャーさん】これ、どこで撮ったの? 【マネージャーさん】この人は最近ネットに現れたパパラッチで、ビッグハンマーというの。この頃、立て続けに何人もの芸能人の情報を暴露してるんだけど、真偽が混在してて見分けづらいのよね。でも、それがかえって多くの人を引きつけてしまってるわ。 【マネージャーさん】彼のCatChatを見たら、とある投稿に、今日は商店街の映画館に行って人と会うってコメントしてたわ。そこに行けば、彼を見つけられるかも。 【マネージャーさん】デマの訂正は早いに越したことがないわ。パパラッチが事務所に協力してくれたら一番いいんだけど。映画館で会いましょう。絶対にあいつを見つけるのよ! 予想外なことに、この映画館はAとB、2つのエリアに分かれている構造をしていた。早くターゲットを見つけるため、映画館に着いた私達はマネージャーさんと手分けして捜すことにした。 [player]私達が探してるのって、あいつだよね? [藤田佳奈]シーッ……見ちゃダメ、気づかれちゃう。ひとまず映画を見に来たカップルになり切って、相手の不意を突こうよ♪ [player]なんかワクワクしてない……? [藤田佳奈]や、やだな、そんなわけないでしょ。PLAYERさんの勘違いだよ! 私と佳奈ちゃんは暗がりに入って状況を見守り、相手の正体を確かめ、マネージャーさんに連絡した。 勝利を確信したのか、パパラッチ・ビッグハンマーは隠れようとしないどころか、堂々とホールの中央に座り、軽やかに鼻歌を歌っている。 およそ十分後、マスクをつけた人物がビッグハンマーの向かいに腰かけ、リュックからファイルを取り出して彼に渡した。 二人の身振りは大きく、事はうまく運んでいないようで、二人とも不愉快そうに見える。見た感じ、仲間ではなさそうだ。 [藤田佳奈]うーん、やっぱり聞こえないなぁ。もう少し近づいてみる? [player]さっき、気づかれないようにしようって言ったのは誰だっけ? [藤田佳奈]どんな話してるか気にならない? まだ巻き返せるって、直感が言ってるんだ。 佳奈ちゃんの野次馬根性はよく知っている。私はホールをぐるりと見渡し、彼女に隠れたままなら盗み聞きをしてもいいと手振りで伝えた。 しかし近づこうとした時に、佳奈ちゃんがうっかり映画館のポスタースタンドを倒してしまった。口論していたパパラッチ二人はその音に驚き、佳奈ちゃんに気づくと、合図したかのように同時に逃げ出した。 [???]チッ!! [ビッグハンマー]ずらかるぞ! 追いかけようにも、倒れたポスタースタンドが私達の行く手を阻む。この状況では、捕まえられるのはせいぜい一人だけだろう。