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むしろロマンがあると思う。

雀士: 
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[player]安定しないかもしれないけど、ロマンがあって好きかも。
[サラ]あらまぁ、そう思ってくれたの。父さんもそう思ってくれたらいいのに。
[サラ]私が最初にサーカスに入りたいと言った時も、タンポポの綿毛みたいな暮らしをするんじゃないかと心配してたわ。
[player]え、じゃあどうやってお父さんを説得したんですか?
[サラ]いえ、説得なんてしなかったわ。「行ってきます」って言ってそのままサーカスに入ったの。しばらくして前の団長にこのことがバレて、彼と私で父さんに相談しに行って……身の安全を必ず保証するからって言って、ようやく許してもらえたわ。
[サラ]今でも定期的に連絡させられてるし、父さんって本当に寂しがり屋なのよね~。ウフフ。
[player]はぁ……。
娘が無断でサーカスに入っちゃったのに、定期的な連絡だけで許してるなんて、サラさんのお父さんって結構大物かも。
[サラ]とは言っても、こうやって誰かに心配されることは、別に悪いことじゃないわよね~。
[player]それは、もちろんそうですよ。
[player]その話は置いといて、さっきから気になってるんですけど……もしかして私、歓迎されてなかったり……?
被害妄想ではない気がする。サラさんと歩いている間、ずっと周りの人に警戒の目で睨まれているような。
[サラ]そんなことないわ。みんながあなたのことを知りたいと思ってるだけ。あなたがみんなのことを知りたいと思ってるみたいにね~。
[サラ]お互い打ち解けるまで、もう少し時間を取りましょう、ね。
[player]そういうことですか……。
彼らの目は、お店に入るのを躊躇うリリアちゃんのものと同じだった。
こちらから挨拶したほうが良かったかなとちょっと思ったが、今の私はただの客だ。ここのやり方に従うとしよう。
もうしばらく集落を散策していると、気立てのいい女性が私たちに話かけてきた。
[女性客]サラちゃんじゃーん、友達連れて来たのにあたしらには紹介してくれないのー?
[サラ]やだ、今紹介しようと思ってたところよ。こちらはPLAYERさん。
[player]こんにちは。
[女性客]どうもどうも。PLAYERサンかぁ……。サラちゃんが友達連れて来るなんて初めてだけど、本当にただの友達?
[サラ]大切な、お友達よ。
[player]ん?
[女性客]なるほどねー、サラちゃんにも大切な人が出来たんだ~。
[サラ]そりゃできるわよ~。
[女性客]さて、肝心のPLAYERサンはどう? サラちゃんのことどう思ってるの?
[player]そ、それは……。
好き嫌いって言えばもちろん好きだけど、今この場で言う必要あるか!?
[サラ]もちろん、好きよね~。今までやった全ての公演を見に来てくれた、大切なファンだもの。
な、なるほど? そういう意味の「大切」か。ってか毎回行ってるの気づいてたんだ、何か嬉しい……。とはいえ、こんな風に言われるのはちょっと恥ずかしいな。
[サラ]こんなにも心配してくれて、手を差し伸べてくれるお客さんなんて初めてよ。姿が見えないと寂しいと思うし、これが「大切な人」じゃなくて何て言うのかしら。
[女性客]はいはい、のろけ話ね。
待って、それは流石に誤解じゃない!?
誤解を解くチャンスも与えず、女性はにやけた口元を隠しながら去って行った。変な噂が出回らないといいけど……。
[player]この前までは「変わったお客さん」じゃなかった?
[サラ]変わったお客さんではあるわ。同時に大切なお客様でもあるの。
[player]あはは……。そう言ってくれて光栄だよ。
[サラ]こちらこそ、ファンになってもらえて光栄ですわ、お客様♡
日が沈み、サラさんは家馬車のカーテンを持ち上げ、私を中へ招いてくれた。
中に入ると、手仕事をしている老婦人が一人いて、サラさんはその老婦人の隣に座って、作りかけの編み物を拾い上げた。
[サラ]おばあちゃん、お手伝いに来たよ~。
[老妇人]あら、サラちゃん。
[サラ]今日も、物語の続きを聞かせてくださいな。
[老妇人]ほほほ、もちろんいいですよ。
サラも老婦人も、私について特に何も言わなかったので、することもなく適当に座った。
やがて老婦人は物語を話し始めた。その物語は、どうやら彼女自身が長い人生の中で体験した様々な出来事の物語のようだった。
家族の話から、彼女個人の話、民族全体の話まで。
老婦人はゆっくりと語り続ける。時々、さっきまで話していたことを忘れたり、話が突然止まり、眠ってしまったのかと思わされたりした。
[サラ]おばあちゃん、今ハンサムな青年に出会った話をしてたわ。
[老妇人]そうだった、そうだった。あの男は今やじいさんだけどね、ほほほ……。
老婦人の話が止まると、サラさんが止まる前の話を老婦人に教える。しかしなぜか、中断した後は必ず、老婦人が恋人の男と出会った話に戻るのだ。
いつになったら物語の続きが聞けるんだろうと思いつつ、老婦人は恋人との出会いを話す時瞳に光が戻るので、これはこれでいいなと思った。
[player]……なんだか、眠くなってきた。
日が落ちると共に、自分のまぶたも段々と降りてきて……。
そして目の前が真っ暗になった。
再び目を開けると、すっかり夜の帳が下りていた。
それなのに、馬車の外は昼間よりも賑やかになった気がする。外から戻ってきた人々の声と共に、食べ物のいい香りが漂ってきた。
[サラ]あら、起きたのね。いい夢見れたかしら~?
[player]話の途中で寝ちゃって、おばあさん怒ってませんでしたか?
[サラ]怒ってないと思うわよ、おばあちゃんも寝てたしね。さ、夕食に行きましょ~。
ワゴンを出て、リリアちゃん達が起こしたかがり火を囲み、みんなと夕食を共にした。
[リリア]PLAYERさん、いっぱい食べて。おかわり、たくさんあるから。
[player]ありがとう。いきなり来て、晩ごはんまで一緒になっちゃってごめんね。
[リリア]いいの、あなたはサラお姉ちゃんの大切な人だから。
あ、あれ? もしかしてもう噂が広まってる?
食事中は料理を持ってきて分けてくれたり、酒を勧めてくる人が後を絶たなかった。この和気あいあいとした雰囲気、サラさんが言った通り、みんながひとつの家族として暮らしている証だ。
そんな家族の輪の中に私みたいなよそ者が入り込んでも、異郷の民の皆さんは気に掛けることなく歓待してくれた。来てすぐの時とは大違いだ。
[player]本当にいい人達ですね。美味しいご飯を食べて、みんなに歓迎されて、こんな夜を過ごせるなんて……今朝は思いもしてませんでしたよ。
[サラ]ふふっ、私もあなたと一緒に来られるなんて思わなかった。喜んでもらえて嬉しいわ~。
[player]食べたら、またおばあさんのところに行きます?
[サラ]まだ寝てるでしょうし、今日は邪魔しないでおきたいわ。それに、ネタもちゃんと拾えたし、今度また一飜市のことでも話しましょ~。
[player]ネタ?
[サラ]ええ。昔あるダンスの先生が言ってたの、踊り子は踊りのスキルを磨くのと同じくらい、世間を知ってそれを踊りに織り込むことを大切にすべし……って。
[サラ]でも私くらいの年齢だと、経験なんてたかが知れてるでしょ。だから、おじいちゃんおばあちゃんたちに話を聞いて、それを新しい踊りのネタにしてるのよ。
[player]つまり、同郷の先輩達の人生を踊りに取り入れてるんですね。
[サラ]いい表現ね~。一族の人はみんな、不安定だけどロマンある暮らしをしてきたわ。そんなみんなの物語を、ダンスを通して世間の人に見せたくて、勝手にやってるんだけどね~。
[サラ]そのついでに、彼らの話の中で「故郷」の手がかりを探してるの。
[player]もう故郷のことは忘れたって言ってませんでした?
[サラ]ええ。でも、でも昔お母さんが、「故郷の美しい山々の間には、炎のようなアデニウムの花が咲き乱れている」って言ってたの。その景色をいつかこの目で見てみたいのよね~。
[サラ]「Soul」に入ったのも、旅しながら「故郷」について調べたいのが半分くらいの理由よ。
サラさんは苦笑しながらそう言った。聞く限りだと、故郷への旅路はまだまだ先が長そうだ。
[サラ]いつか「故郷」を見つけられるかしら……。言い伝え通り、私達は長く「故郷」を離れ過ぎたのかもしれないわね。
[player]……。そうだ、明日もう一度おばあちゃんに聞いてみませんか? それに、お年寄りに限らず若い世代にも話を聞いたほうが……。
[サラ]それは難しそう。明日の朝、ここの集落の人達はまた旅に出る。今夜はそれを祝うための宴なの。夜が更けるまで続くはずよ。
[player]そういうことですか……。
せっかくみんなと仲良くなれたと思ったのに、明日にはもうお別れか……。
リリアちゃんが寂しそうだったのも、サラさんの新しい衣装を見ることは無いとわかっていたからか。
[player]今夜一晩、ここにいさせてもらえませんか? 明日みんながいつ出発するかは分からないけど、ちゃんとお別れを言いたいんです。
[サラ]ウフフ、もちろんいいわよ~。
夜が深まり、「異郷の民」達は大きなかがり火を囲んで、楽器の演奏や、歌や踊りを始めた。サラさんは私が泊まれる所を探しにその場を離れ、私は彼女を待つことにした。
みんなの歌やダンスを見ながら、サラさんの話を思い返す。
[player]アデニウムの花って……
スマホで検索してみた。
砂漠の薔薇という別名を持つアデニウムは、一飜市には生えてなさそうだ。
[player]せめて花畑でも見せられたらなぁ……。やっぱり難しいかな?
[ミーちゃん]にゃ~。
[player]……ん?
周りを見渡すと、暗闇の中でミーちゃんの歩く姿が火に照らされている。こんな時間にいったいどこへ行くんだろう。