You are here

あなたのことが好きな人かもしれないね

jyanshi: 
categoryStory: 

[player]うーん……ポジティブに考えるなら、二之宮さんのことを好きな人かもしれないよね。 [player]すごくシャイで、告白出来ないでいるのかも。 二之宮さんが今まで以上に不安そうにしているので、慌てて何とか慰めようとしたが、ますます困った表情になってしまった。 [二之宮花]私のような透明人間を好きだなんて、物好きにもほどがあります。普通の人は、私の存在には気づけません。 [二之宮花]そう思うと、やっぱり素直に喜べませんよ。 [player]そんなことないよ。二之宮さんは確実に可愛い部類に入るし、誰かが好きになることは充分あり得ると思う。 [二之宮花]ありがとうございます。そこまで慰めなくてもいいですよ。 [player]慰めじゃないよ。私の趣味が変とか、友達相手に調子のいいことばかり言う嘘つきだとか思ってる? [二之宮花]違います。ただ……可愛いという形容詞は私みたいなのではなく、もっとこう、佳奈さんのような人に使うものだと思うので。 [player]アイドルは確かに可愛いよ。でもそれはあくまで「可愛い」の範囲の一部でしかない。 [player]ほかの友達にも可愛いって言われたことあるでしょ。私だけ見る目がないとは言わせないよ。 [二之宮花]……わかりました、私の負けです。 二之宮さんは両手を挙げて降参の意を示した。心配で強張っていた顔も、今は少し悪戯っぽい表情になっている。 [二之宮花]さすがいつも女子に囲まれているだけありますね、あなたの口の上手さには敵いません。 [player]やっぱりまだ信じられないってことか…… [二之宮花]信じます、心から褒めてくれましたし。 [二之宮花]ありがとうございます、PLAYERさん。 [player]どういたしまして。 二之宮さんは静かで寡黙な印象が強く、こういうお茶目な所を見るのは始めてだったので、ちょっと新鮮だった。 [player]見方によっては、ストーカーがいるってことは、あなたの存在感が増したってことにならない? [二之宮花]ストーカーされるくらいなら、ずっと透明人間のままの方がいいです…… [二之宮花]それに、本当に私のことが好きなら、何故そう言わずに、そんな不気味なやり方で近付いてくるのでしょうか。 [player]同感だよ、どんな理由であれ、ストーカーは良くない。 [二之宮花]……いつもジェーンさんに頼まれて尾行調査してる私も、人のこと言えないですけど。 [player]あー…… 話題を変えよう。すぐに解決できない以上、これ以上ストーカーの話を続けても不安を煽るだけだ。 [player]それにしても、どうして存在感を強くしたいと思ったの? [二之宮花]人に好かれたいと思うのに、理由が要りますか? [player]要らないけどさ、存在感を強くすることと、人気になることは、微妙に違うと思うよ。 二之宮さんは手にしていたコップを置き、こちらを凝視している。今のが気に障ったのだろうか。 [player]い、今のは適当に言っただけだから。別の話しよう。 [二之宮花]ああ、いえ、怒ってません。ただあまりに図星だったので驚いただけです。 [二之宮花]私が存在感を強くしたいのは、確かに人目を引きたいという理由からではありません。これは私の生死に関わることなんです。 そ、そんなに深刻な理由だったの? [二之宮花]PLAYERさんは「孤独死」って知ってますか? [player]知ってるよ。一人暮らしのお年寄りが、急に具合が悪くなっても誰にも助けてもらえず、一人で亡くなってしまう……最近多いんだってね。 [二之宮花]そうです、ただ……それは老人だけじゃなくて、周囲との関わりが薄い人なら、どの年齢層の人であっても起こり得ることなんです。 [二之宮花]前までは透明人間として一人静かに生きるのもいいなと思ってましたけど、「孤独死」という言葉を知って、すごい危機感に襲われたんです。 [二之宮花]このまま何もせずにいると、私みたいな透明人間はああいう悲惨な末路を辿るのではないかと…… [player]あはは、そこは安心していいよ。 [二之宮花]これのどこが安心なんですか? [player]私がいるじゃないか。二之宮さんの存在感がまったく強くならず、むしろ下がってしまったとしても、ちゃんと気付いてあげる。だから、心配することないよ。 [二之宮花]…… [player]……か、かなり真面目に言ったつもりなんだけど、何も反応がないと恥ずかしいな。 [二之宮花]……ふふっ! 一応反応はあったが、この噴き出したような笑いとさっきの沈黙と、気まずさで言えばいい勝負だ。 [二之宮花]ご、ごめんなさい。悪気はないんです。まさかそんなに真剣に考えてくれてると思わなくて、気恥ずかしくて……何て返事したらいいか、わからなかったんです。 [二之宮花]というより、慰めるならもう少し前向きなことを言ってくださいよ。絶対存在感強くなるよ、とか。 [player]最悪のケースを想定して保険をかけておいた方が安心かなって。 [player]それに、そんな風に言うってことは、本当はそこまで心配してないんじゃない? [二之宮花]必要以上に心配しないだけです。私がこう思うようになったのは、麻雀をやっている時、まだこの先一生透明人間だって決まった訳じゃない、人生を変えるチャンスはまだあるんだ……って気付いたからなんです。 二之宮さんは、初めて藤田佳奈と共に生徒会室に呼ばれ、石原碓海達と対局した日のことを振り返った。 [二之宮花]……あの対局の夜、本当のことを言うと、一人でお風呂で泣けてきてしまったんです。 [二之宮花]それから、「私がやったんだ」と幼稚園の頃の自分に言ったんです。私、あの緑色の四角い舞台に立って、スポットライトを浴びたよ……って。 [二之宮花]それに、麻雀をやっている時の私は注目を集めてるって、人気アイドルの佳奈さんが太鼓判を押してくれたんですよ。だから、これ以上現状に甘んじていられません。私は勝ちたい、です。全力であらゆる対局に勝って、誰もが無視できない存在になりたい……です。 [player]二之宮さんならできるよ。もう全然油断ならないくらい強いから。 勝利への渇望を胸に腕を磨き続けているのだから、卓上で注目を集める存在となったのも必然と言える。 [二之宮花]あの……「孤独死が怖いから」が存在感を強めたい一番の理由じゃなかったとしても、さっきPLAYERさんが言ってたことは覚えておきます。 [二之宮花]あんなに真剣に言ったんですから、ちゃんと責任を取ってください。保険をかけておいたほうが安心できるとも言ってましたしね。 [player]雀士に二言は無いよ。だから強くなることに専念して、もっと存在感を持てるよう頑張ってね。 なかなか責任の伴う約束をしてしまったが、努力している二之宮さんを見ていると、応援せずにはいられないんだよな。 気づけばお昼だ。今から場所を変えるのも手間なので、そのままレストランで食事をした。 [player]この後は何か予定あるの? [二之宮花]今日は午後から会館に行く予定なんです。PLAYERさんも一緒に行きますか? [player]うん! 元々は家に帰るつもりでいたが、ストーカーの件もあるし、二之宮さんと麻雀会館に行くことにした。 [二之宮花]他には誰も誘っていないので、どこかの会館の空いてる席にでも入れてもらいましょう。候補はありますか? [player]週末は混んでると思うから、先にお店に電話してみようか。 [二之宮花]そうですね。 二人してスマホを取り出した時、花壇の中で何か光っているのを見つけた。 花壇を少し探ると、なんとそこには一本のクナイが刺さっていた……! [二之宮花]あれ?入らないのですか? 会館入口まで来ると、予定を変更し、二之宮さんに先に一人で入ってもらうことにした。 [player]さっきレストランを出た時、ストーカーの手がかりを見つけたんだ。ここで待ち伏せしようと思う。 [二之宮花]でももし本当にストーカーがここまでつけてきたとして、そんな風に堂々と見張ってたら、逃げられちゃいませんか? [player]いや、捕まえるなら今しかない。向こうもバレたくないなら、下手には動けないはず。 [player]とにかく、先に入ってて。ここは任せて! [二之宮花]……わかりました、気を付けてくださいね。 二之宮さんを見送り、一つ深呼吸すると、道路の方を向いてストーカー探しを開始した。 街はとても静かで、黒塗りの高級車が通りかかった他は、人どころか動物すらいない。 一見何も異常はなさそうだけど……