[player] やっぱり刀でしょ! 刀こそ王道! 刀こそ正統派武器! ありがとう、見知らぬ同門の友よ!
[-] 西羽流道場の弟子が複雑な表情で手渡してきた刀を受け取り、九華さんに向き直って構えた。
[player] 新しい武器も手に入ったみたいだし、試合再開といこうか。この技、受けてみな!
[-] 九華さんが正面から切り込んできたが、そう来ると踏んでいた私は身を翻すと、その勢いに任せて刀を九華さんに向かって振った。
[-] 九華さんはわずかに驚いた表情を見せたが、軽く跳躍してかわした。刀が彼女の前髪をかすり、数本を切り落した。
[九華] さっきの話の通りなら、あんたは西園寺一羽の弟子なんだよね。ふーん、なかなかやるじゃない。
[九華] だったら、こいつはどう?
[-] 九華さんから発せられる闘気が、これまでとは一変した。今までのは軽い遊び程度のもので、本気を出してきたってことか!?
[player] ちょっ、そこまでやる必要あります!?
[九華] 西園寺一羽は、我らが楓花様と同等の力を持つ強者と聞いている。一番弟子の実力、見せてもらうから!
[-] まずい、ものすごい敵意が出てる。
[-] 九華さんの攻撃がいよいよ速度を増し、私はなすすべなく防御に専念した。
[-] 何度か刀で槍の突きを弾いた所で、借り物の刀が刃こぼれしてきていることに気づいた。 横目で刀の持ち主を見てみると、彼女の青ざめた顔が見えた。
[-] 刀を救うために、タイムを要求すべきだろうか、などと真剣に考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
[梅] そこまで、九華。
[-] 梅さんが群衆の中から現れ、私と九華さんのもとへと歩いてきた。
[九華] 梅お姉ちゃん? どうしてここに?
[-] 梅の声がした途端、九華さんは槍の攻撃を止め、一転して可愛らしい態度になった。
[梅] この前言ってたコーチは、渋滞で到着が遅れてる……って伝えに来たのだけど。
[九華] えっ、じゃあこの人は……
[梅] PLAYERさん、周年祭の責任者よ。
[player] ど……どうも。
[九華] えっ? えええ~~っ!? ご、ごめんなさい……まさか、こんなことになるなんて……
[-] 九華さんは目隠しを外すと、私や周囲を見回した。たちまち顔が赤くなり、槍を下ろして何度も頭を下げて謝った。
[九華] あなたの動き、その辺の人達よりずっと良かったから、てっきり新しいコーチかなって。それで、あの……このコーチ、なかなかやるな、って……
[九華] とにかく、すみませんでした!!
[player] 大丈夫、大丈夫。これも縁ですよ。
[-] 半ば強制的に「武道会」に参加させられたものの、体も動かせて悪くない感じだ。しかも大した怪我もなかったし。
[梅] 全員問題ないなら、あとは食事の席で話しましょう。
[-] 梅さんは、周囲に向かって、やや声を張ってアナウンスした。
[梅] 観客の皆さんも、そろそろ解散してください。「竹雲」の周年祭を祝ってくださる皆様に感謝を込めて、本日は「竹雲」系列の全ての飲食店にて、飲食代二割引きを実施します。ぜひお越しください。
[群衆A] うおーっ!
[群衆B] さすが「竹雲」、太っ腹!
[群衆C] あんたら、なんにでも拍手するやんけ。サクラかな?
[-] もう終わりだとわかってか、それとも割引情報に釣られてか、野次馬は瞬く間に散って行った。ついさっきまで元気よく喋っていた姫川さんも、笑いながら手を振り、去っていった。
[-] 一姫を連れて、梅さんと食事に行こうとした時、誰かに背後から服を引っ張られた。
[player] ん?
[九華] 梅お姉ちゃん、ちょっとPLAYERさんにお話があるの。先に、猫耳の巫女さんを案内してくれない……?
[-] 梅さんは私達の顔を見て頷いた。
[梅] わかったわ。
[-] 梅さんと一姫がその場を離れると、九華さんはぐいっと私の手を引き、厨房の方へ急いで歩き出した。
[九華] さっきはごめん。……でさ、あんたは心が広いって聞いた。だから、助けてくれない?
[player] 何があったんですか?
[-] その時、厨房の扉の内側から、幾度となくノックするような音が聞こえた。やがて、バン! という大きな音とともに、何かが扉を突き破って飛び出してきた。
[九華] まずい、逃げ出したぞ!
[player] な、何が……?
[-] 答えが返って来るより早く、その「何か」が見えた。群れを成した鶏、アヒル、そして鳩。料理に使われる鳥達が、一斉に厨房から飛び出してきたのだ。中には、紙やペンをくわえてるのもいる。なんで……? 鳴き声と羽毛が飛び交い、場は大混乱に陥った。
[九華] これ使って!
[-] 九華さんは細い紐を投げてよこすと、群れの中に飛び込んでいった。
[player] 助けて欲しいっていうのは、鳥を捕まえる手伝いか……まぁ、やったことがないわけじゃないし。
死闘の末、鶏やらアヒルやら鳩やらを一羽ずつ縛り直すことができた。二人して羽毛まみれになりながら、地面にへたり込んだ。
[-] すると、どちらのものだろうか、お腹がぐうと鳴る音がした。九華さんと私は、顔を見合わせて笑った。
[九華] 梅お姉ちゃんが用意したスペシャルディナーには間に合わなさそう。あ、だったらあたしがご馳走するよ。さっきの無礼の詫びってことでさ。
[-] 九華さんに「竹雲」の社員食堂へ連れられ、食事を奢ってもらった。そろそろ食べ終わるかという頃になって、私は勇気を出してずっと抱いていた疑問を口にした。
[player] 九華さんは、南社長のボディーガードなんですよね。どうして、朝から厨房でハトの下処理の仕事をしていたんですか?
[九華] ああ、あれは賄いに使うやつなんだ。槍の練習をさせてもらってるの。下処理も一緒に済むからって厨房のおじさんに言ったら、いいよって。
[九華] あたしって本当に賢いよな、こんな、まさに一石二鳥の方法を思いつくなんてさ。
[player] 賢いは賢いけど、練習相手がハトとは……。誰か他の人にお願いすればいいのでは?
[九華] それは……。
[-] それまでの明るい表情が、みるみるしゅんとした表情に変わった。場の空気も一気に重くなったように感じる。
[九華] 誰も練習相手になりたがらなくってさ。以前お願いしたコーチも、全員一日もしないうちに辞めちゃったんだ。……ってことで、とりあえずハトを使って訓練してんだ。
[-] 努めて軽く振る舞おうとする九華さん。しかし、垂れ下がった前髪が目元に影を落としていた。その目に秘められたものは悲しさなのか、寂しさなのか。
[player] すみません、失言でした。
[九華] うん、そうだ! きっとあたしが強すぎるから、誰もまともに戦えないんだ。
[player] 急に元気になりましたね……。
[九華] ふふん。しかも、今ならあんたがいるし、あたしの悩みも解決出来そうじゃない?
[player] 私は一言もコーチになるって言ってませんよ? あくまで周年祭の責任者ですからね?
[-] そう言って、鶏肉の最後の一切れを口に運ぼうとした。九華さんは不敵な笑みを浮かべてその様子を見つめていたが、急に真顔になってこう言った。
[九華] あのさ、今、あたし、思ってることを包み隠さず話したんだ。だからさ、鳥達が脱走した件は、絶対、ぜ~~~ったいに、梅お姉ちゃんに言わないで。二人だけの秘密! さ、指切りしよう!
[-] 九華さんは強引に私の右の小指を引っ張った。お箸と鶏肉が皿に落下したその時、九華さんはまた笑顔になってこう言った。
[九華] コーチが無理なら、ライバルになってよ! お互いの武術を高めるために競い合おう! あんたには才能がある、絶対やれるって。今度はこっちから遊びに行くからさ!
[player] もう……勘弁してくれ~~!
Character:
categoryStory:
ending: