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「ヴーッヴーッヴーッ……ヴーッヴーッヴーッ」.ZYQDchalou02.1643

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[-] 「ヴーッヴーッヴーッ……ヴーッヴーッヴーッ」
[player] もしもし……?
[???] その声の感じ、今起きたばかりのようね。
[player] ……梅さんですか?
[梅] ええ。
[梅] この時間に電話したのは、昨日の「闘茶」の件で少々問題が発生したからなの。これを見て。
[-] 梅さんからスクリーンショットが送られてきた。今日のトレンド欄みたいだけど……。
[梅] アングルからして、昨日店に来ていた人物が撮ったものでしょうね。「迷蝶」に対してだけでなく、「竹雲」が契約業者を変更したことにもかなり不満があるみたい。
[player] 誰がやったのか、調べてみましょうか?
[梅] 必要ないわ。「竹雲」の目が届く範囲でこんな小細工をする者は、私の方で処理しておく。
[梅] 今重要なのは、私達「竹雲」と「迷蝶茶楼」が一蓮托生の身になったということ。だから、今日の闘茶は必ず「迷蝶」を勝たせるようにして。
[player] いや、闘茶の経験もないのに、どうすれば……。
[梅] アー、モシモーシ? 電波が悪いみたい。……まあいいわ、何かあったら蘭に連絡して。 じゃあ切るから。
[player] はぁ……、上司が抱えている問題を解決するのが私の仕事ってことか。何とか対処しよう。
[-] 突発的な事案に対応すべく、私は早朝から「無双街」へと向かった。
[一姫] にゃ! ご主人だにゃ!
[player] 一姫と……舞ちゃん? どうしてここに?
[相原舞] 一姫ちゃんが、今日はすごい騒ぎになりそうだから見に行くって言ってて……旦那様も関わってるって聞いたので、少し心配で。
[一姫] つまり! 一姫と舞は、ご主人を応援しに来たのにゃ!
[-] その発言を聞いた私は、思わず周囲を見回した。
[一姫] にゃ? どうしたのにゃ?
[player] な、なんでもない。気にしないで。
[player] (小声)かぐや姫がいなくて助かった。もしあのイタズラ好きと一姫がこの場に揃ってしまっていたら、ただでさえ面倒な仕事が更にややこしいことになる所だった。
[一姫] にゃ……! なんにゃ、この人だかりは! 全然中に入れないにゃ!
[-] 「迷蝶茶楼」の入口は人でごった返していて、少しも入り込む余地が無い。
[???] (小声)代表者さん! こっちこっち……!
[-] かすかに声がした方を見ると、道の角から顔を出している元宵さんが見えた。
[元宵] まだ早朝なのに、入り口が人で溢れちゃって、全く身動きが取れなくなっちゃったんだ。「無双街」の人達だけじゃなくて、街の外からもたくさん……あれ、この二人は?
[player] 元宵さんの言う、「街の外から来た人」です。
[元宵] えぇ~っ!?{var:Shake}
[player] 大丈夫、私の友達です。応援に来てくれたんですよ。
[元宵] な~んだ……それなら安心だね。みんな、裏口から入ろう。
[???] だから言うたやろ、PLAYERさんが一人で来るわけないって。あは、相変わらず人気者やねぇ。
[-] 店内に入ってすぐ、馴染みのある声が聞こえてきた。茶席の方を見てみると、昨日来ると言っていた袁楓さんに加えて、意外な人物の姿が見えた。
[player] 福姫さん、どうしてここに……?
[福姫] おもろそうやったから。
[-] 非名さん、いっつもどっか飄々としとるやろ? こないめんどいことになったらどない顔するんやろおもたら、これは見に行かなあかんなってなってん。
[福姫] まあまあ、うちのことは気にせんでええよ。あんたのやらなあかんことやって。
[player] 非名さんといえば、今はどちらに?
[元宵] 昨日出かけたまま戻ってないよ。朝連絡したんですけど、手順通りにやったらいいって……。
[元宵] はーあ。うちの店長っていつもこんな感じなんだ。どんな危機的状況でもどこ吹く風っていうか。
[袁楓] 皆さん、茶楼組合の人がそろそろ到着する時間ですヨ。このままだと、元宵さん一人で戦うことになるのカナ?
[元宵] うん……でも……。
[福姫] 闘茶ってゆうからには、分茶とか点茶とかゆう技術も競うんやろ? ただ普通にお茶を入れただけやったら勝てんやろしね。
[元宵] そうですね……。
[袁楓] その通りだネ。無双街に住む人なら、多少の差はあれど皆その方面の技術を身に着けているし、こだわりもある。しっかり本気でやらないと惨敗するだろうネ。
[元宵] あの……
[-] 元宵さんがちらちらと私を見ている。何か言いたいことがあるのかな?
[李さん] 皆さん、お集まりいただきありがとうございます。本日、私共「新月茶楼」は、お立合いの皆さんの信頼も厚い、董さん、呉さん、王さんのお三方を、審査員としてお招きしました。
[李さん] 「迷蝶」の皆さんも、異論はありませんね?
[-] そんな元宵さんの事情など知るかと言わんばかりに、「新月茶楼」の人達が審査員とともに一階のホールに入ってきた。昨日来ていた三人を除いた、白髪頭ではあるがかくしゃくとしている三人が、先ほど言っていた審査員だろう。
[袁楓] (小声)あの三人は、確かに無双街で人望が厚い人達だネ。公正に審査してくれるはずだヨ。
[元宵] うちの店主はまだ戻っていませんが、伝言を預かってます。……えっと。
[元宵] 「好きにしぃ」。
[player] (小声)元宵さん、非名さんがそんなことを……?
[元宵] (小声)言ってない。けどあの人、「ふぅん。」としか言わなかったんだよ!? 僕も意味わかんなかったし、だったら適当に言ってやろうかなって。
[player] (小声)それ、伝言って言えるのかな……。
[董さん] 異議がないようなら、呉さん、まずルールを説明してはいかがでしょう。
[呉さん] ふむ、ならわしから簡単に説明しよう。
[呉さん] うぉほん。では皆さん、今回の「闘茶」では、それぞれ持参した茶葉を使って、三杯ずつ淹れてもらう。私達三人でお茶を評価し、三番勝負のうち二勝した方を勝ちとする。
[呉さん] わかったかね?
[李さん] ええ、わかりましたとも。
[元宵] わかりました。
[袁楓] ほほ~、このルールであれば、分茶も点茶もする必要はなさそうだネ。だけど、元宵さん一人で三番勝負に挑むことになる。勝つのは難しいだろうナ。
[一姫] カツ!? トンカツが出るのにゃ!?
[player] また古典的な……。ほら、良い子だからお茶っ葉でも食べててね。
[一姫] にゃ~! こんな葉っぱ臭さしかしないもの、一姫あんまり好きじゃないにゃー!
[袁楓] はは、違いないネ。茶の木の葉っぱから作られてるんだから、その匂いがするのは当然だヨ。
[福姫] ……話を戻させてもらうで。袁楓さん、次は「こんな状況だし、うちらの中から二人選んで、元宵さんを助けようヨ~」なんてゆうつもりやないやろね? あかんあかん、非名さんのためにタダ働きなんて、うちは堪忍やで。
[元宵] ちょっと、それさっきからず~~~~っと言おうとしてたんですけど!
[player] もう誰に手伝ってもらうかも決めてるんですか?
[元宵] うん。あ、いや、実は店長さんがすでに決めてたんだ。
[元宵] 人手が足りなかったら、昨日火に入ってきたお人好しな虫を使えばいい……って。
[袁楓] なるほどネ~。
[福姫] そーゆうことか。
[-] 元宵さん、袁楓さん、福姫さんの視線が、一姫と舞ちゃん……を通り過ぎて、私のもとへと集まった。
[player] 虫……って、「新月茶楼」さんじゃなくて、私のこと!?
[袁楓] というわけで、頼んだぞ、お人好し君!
[player] えっいや、私は……!
[-] 言うが早いか、元宵さんは近くの机に置いてあった一冊の本を手に取り、私に渡してきた。タイトルは……『おじいちゃんのお茶の知恵袋』!?
[元宵] 一夜漬け……っていうかもうその場漬けだけど、使えると思う。頑張って!
[一姫] ご主人、頑張るにゃ!
[相原舞] 旦那様、舞も、応援してますから……!
[player] でも……。
[元宵] あっそうだ、店長さん、『竹雲』の代表者がこんなことにも対処出来ないんだったら、今回の専属契約の件は無かったことにするとかも言ってたよ。
[player] なんなんだ、その店主は……うちのボスと似たようなこと言ってる……。
[元宵] 上司ってそういうもんだよ、お人好し君。慣れていこ。
[王さん] 「迷蝶」の方、よろしいでしょうか?
[元宵] はい、問題ありません。うちの参加者は、私と……
[-] 元宵はそう言いつつ、私の腕を取って上に挙げさせた。
[元宵] この人です!
[-] ペーペー二人に抗う術などあるはずもなく、闘茶が始まった……
[-] 第一試合は、当然と言うべきか、元宵さんが先陣を切ることになった。
[-] 元宵さんは、茶道具を並べた後もしっくり来ないようで、何度も配置を変えていた。何度繰り返しても、満足いくものにはならないようだった。
[player] 元宵さん、どうしたんだろう?
[相原舞] 緊張、でしょうか……?
[袁楓] 元宵さんは、元々心静かにお茶を淹れられるタイプの人ではないからネ。日頃から非名氏が彼女に茶芸を教えているのは、お茶と向き合う心の在り方を鍛えたいからなのかも。
[袁楓] いつもはその場を切り抜けるために見よう見まねでやってたけど、ここにきて本当の実力が問われることになるとわかって、緊張してるんだろうネ~。
[一姫] 普段勉強しないくせに、テスト前にだけ神社にお参りしにくる学生さんみたいだにゃ。
[-] などと話していると、元宵さんがいる方から「ガシャーン」という音が聞こえた。どうやら、茶器を割ってしまったようだ。
[-] 半分同僚みたいなものだし、こういう時は手助けすべきだろう。私はため息をつきながら、予備の茶器を持って向かった。
[player] 手伝いますよ。
[元宵] お人好し君……!
[-] 振り返った元宵さんは、目がうるうるとしていた。
[player] そこまで感動しなくても……。
[元宵] うう~……お人好し君って、本当にいい人だね。唐辛子の種を取ってたら、うっかりそのまま目を擦っちゃって、すっごく痛いの。残りの種を取るの、手伝ってくれない?
[player] お茶に唐辛子を使うことなんてある!?{var:ShakeScene}
[元宵] えへへっ、後でわかるよ。うー、ヒリヒリする……とりあえずこれ、お願いね! 僕、とりあえず目を洗ってくる。
[-] 呆気に取られた私をその場に残し、元宵さんは二階へと駆け上がっていった。こうなっては仕方がない。テーブルに並べれた材料を見ると——青唐辛子、乾燥唐辛子、花椒、シナモン、八角……。
[player] お隣の米線屋でもここまで調味料揃えないでしょ!
[-] ……で、この新鮮な青唐辛子を割って、出て来た種をこの小皿に入れていけばいいのか。
[-] 青唐辛子を手に取り、力を込めると……。
[player] うわー! 目が~~~!{var:ShakeScene}
[元宵] あれ? お人好し君、泣いてるの? 少し離れていた間に、何があったの?
[player] 茶芸が剣術より危険だとは思ってもみなかった……戻って来たんだったら、残りはお願いします。私も目を洗って来ますので……。
[-] 目を洗い、一階の闘茶会場に戻ると、既に試合が始まっていた。
[-] 元宵さんは、とてもリラックスしているように見える。けど、なんていうか……。
[-] 仮に、対戦相手の李さんを「仕事に真剣に取り組むサラリーマン」に例えるなら、元宵さんは「授業をサボって屋上でネット麻雀をやる学生」といったノリだった。
[-] 先ほどとは大違いのルンルンぶりだけど、何があったんだろう。
[元宵] 塩を小さじ一杯、陳皮を二枚、生姜は……うーん、少なめにしとこっかな……。
[-] 何やらつぶやいている元宵さんに興味を引かれ、私は茶壺を覗いた。広口の茶壺には、やや粘り気のある緑色の液体がふつふつと沸騰していた。
[player] 審査員の皆さん、こんなの飲んで、体に障ったりしないかな……?
[福姫] ぷっ、あはは! そんなえらいもんやあらへん。ああ、それにしても懐かしいわ。
[福姫] こういうお茶を煮るやり方、千年前は流行っとったわ。今はほとんど見んようになったけどな。非名さん、しっかりしたもんを教えてはるやん。
[相原舞] そういえば、この前一姫ちゃんと一緒に飲んだミルクティーも、もち米と岩塩が入っていて、スプーンですくって飲むタイプのものでしたね。とても新鮮で、面白かったです。
[一姫] それにしても、唐辛子を入れるのは初めて見たにゃ。あとで飲んでみたいにゃ!
[player] 好奇心は猫をも殺す……なんて言葉もあるけどね。
[-] 第一試合の終了時間となり、審査員による採点が始まった。
[董さん] おお、これはいいお茶だねぇ。
[王さん] お嬢ちゃん、若いのにこんな古い淹れ方も心得ているとは。珍しいよ。
[呉さん] 若者の模範と言えるのう。
[-] 元宵さんのお茶は、意外にも審査員には好評で、無事勝利した。
[-] 残ったお茶を周りのお客さん達にわけたところ、飲んだ人からは驚嘆と称賛の声が上がった。
[一姫] これは……お粥かにゃ?
[player] お粥だね。
[相原舞] お粥……ではないでしょうか。
[-] 客にはウケたが、提供している自分達はむしろ何とも言えない気持ちでお茶を見た。
[-] ねっとりとした緑色の液体の上に、細かく刻んだ生姜が散らしてある。鼻を近づけると、強烈なシナモンの香りも感じられる。スプーンでかき混ぜると、底に白くて丸い粒が見えた。
[player] これ、さっき剥いた唐辛子の種じゃないだろうな……?
[袁楓] よく気付いたね、お人好し君。ご名答だよ。
[-] 道具を片付けた元宵さんが戻ってきた。
[元宵] お味はどう? みんな飲んだ?
[袁楓] あの、ボク、実は今日の占いで、「今日はお茶を飲むべからず」と出たんだヨ。なので、皆さんにお譲りしますネ。
[福姫] あちゃー、うちの扇飾りがなくなってるわ。ちょっと探しに行ってくるわ。
[-] 元宵さんがこちらを向いたので、私と舞ちゃんは思わず一歩下がった。茶杯の前に残ったのは、一姫ただ一人だった。
[一姫] にゃ? ってことは、一姫が全部飲んでもいいってことかにゃ?
[元宵] ぜひぜひ~!
[-] 元宵さんの期待のこもった眼差しと我々の同情の眼差しが交錯する中、一姫は茶杯を持ち上げ、一気に飲み干した。
[一姫] にゃー! し、舌が……! みず、水はどこにゃーー!{var:Shake}
[-] そのまま、一姫が店の奥へ消えていくのを見送った。元宵さんが再びこちらを見たので、私は別の話題を振ることにした。
[player] 古い茶芸の知識もあるとは思いませんでした。
[-] 古い茶芸? 何のこと?
[player] さっきの試合で淹れたおか……お茶のことですよ。
[元宵] あぁ、これね。あはは、実は思い付きなんだ。こうすれば美味しくなるかな~って。
[player] うそっ!?
[元宵] 今朝、どうしたらいいか店長さんに聞いたんだけど、「心のままに」って言われたから、その通りにやったんだ。
[袁楓] 善人に天の助けあり……ってやつだネ。
[董さん] 皆さん、準備が整いましたら、第二試合を始めましょう。
[元宵] うわぁ……お人好し君の相手、あの荒くれじゃん。気を付けてね。
[player] あはは……。「闘」茶とは言っても、さすがに暴力に頼ることはないでしょう。
[袁楓] 我が同朋は軽く考えすぎだネ。さっき占ったら、「艮為山」の卦が出た。訪れる者は何か良からぬものばかり……注意した方がいいヨ。
[player] えぇ~……。
[趙さん] おいお前ら、闘茶くらいでぐずぐずお喋りしてんじゃねえよ。いっそ負けを認めてくれりゃ、みんなも早く帰れるんだが。
[客1] はは、その通りだ。怖いなら、負けを認めちまえばいいのにな!
[客2] 若いの、趙さんは「無双街」で一番気が短いことで有名なんだ、急いだほうがいいよ!
[袁楓] ほらネ。けど安心して、我が同朋よ。流血沙汰になるような災いではないからネ。
[player] 安心できるかーっ!
[-] 第二試合が、不安とともに始まろうとしていた……。
[-] 元宵さんは、私が烏龍茶を淹れるための準備をしてくれた。『おじいちゃんのお茶の知恵袋』によれば、烏龍茶を淹れる手順は厳密には全部で十八工程あるらしい。前半の九つはお茶を淹れるための工程で、後半の九つはお客さんと分茶する際の礼儀作法だとか。
[-] 今日の「闘茶」のルールを考えると、前半の九つがちゃんと出来れば大丈夫そうだな。
[-] 第二試合、開始。
[-] 意外にも、荒くれな趙さんはお茶を手に取ると同時に静かになり、まるで人が変わったようだった。今、彼の目には、手の中のお茶しか見えていないのだろう。
[客] 趙さんがお茶を見る時の目、奥さんを見る時よりも愛情深いよな。
[player] そうなのかも……
[元宵] ねえ! よそ見ばっかりしてないで、自分のお茶も温かい目で見てあげてよ!
[一姫] ごひゅひん(ご主人)! きほひへまけひゃらめひゃ(気持ちで負けちゃだめにゃ)ー! ……べおがいたふひるひゃ(べろが痛すぎるにゃ)。
[相原舞] 旦那様も、愛する人を見るような目でお茶を見てください! 今の旦那様は、テストの問題用紙でも見ているような目ですけど……。
[player] いや実際にテストでしょ、しかもほぼノー勉状態の……。なんだっけ、最初の三つの工程は……。