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室内のコースを選ぶ。

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[player]屋外もいいですけど、初心者向けなら室内の方がいいと思います。
[撫子]ちゃんと考えてくれてるんだ、ありがとね。じゃあ、ついてきてくれ。ここのコースを使おう。
[ベテラン教官]なるほど、お前が撫子ちゃんの生徒第一号だな。よく来た! ここを自分の家だと思って、なんでも好きに使っていいからな!
[player]あはは……ありがとうございます。よろしくお願いします。
ベテランらしき教官と挨拶を交わして、私は撫子さんに目で問いかけた。
[撫子]あたしにバイクを教えてくれた教官、大先輩だ。あたしの父さんはここでバイクの修理もやってて、ここの教官はだいたい父さんとは知り合いなのさ。先輩たちのおかげで面接のチャンスも貰えたんだよ。
[player]そうなんですか。
[ベテラン教官]ははは、撫子ちゃんも謙虚になったもんだ! ま、この子なら面接なんざちょちょいのちょいだ。でも昔から完璧主義でな、こうやって予行演習もやっちゃったりして、あんたには苦労かけるな。
[撫子]おじさん、ちゃん付けはそろそろやめてくれって何度も言ってんのに……。
[ベテラン教官]はははっ! そりゃ今更やめられねぇよ、ちっちゃい頃からずっと見てきたからな! あのタイヤくらいしかなかった娘が、こんなバイクマニアの大人になるとは……高校行ってた頃の撫子ちゃんにも教えてやりたいよ。
[ベテラン教官]そうだ、高校の卒業写真、確かお前の親父から送って貰ったような……どれどれ……。
[撫子]ちょ?!
先輩教官がスマホを取り出し、写真を探そうとするが、撫子さんに止められた。
[撫子]い、今はそれを見てる暇は無いから! おじさんもまだやる事があるんだろ、そろそろ行きなよ!
[ベテラン教官]お、おう……。じゃ、あんたにはまた今度見せるよ。撫子ちゃん、訓練場を出る時は戸締りよろしくな!
撫子さんは気まずそうに微笑んで返事した。
そんなエピソードも挟みつつ、私たちは本格的に実技訓練を始めた。
撫子さんは明らかに朝の授業より生き生きとしている。
訓練のメニューに沿って、一歩ずつバイクに乗るための知識を分かりやすく教えてもらう。彼女の実演を見れば、初心者でもすぐ出来るようになりそうな気がした。
[撫子]続いて、PLAYER君にも初回教習をこなしてもらおうか。
そんな風に改まって言われると、ついさっきまで自信満々だったこっちもちょっと緊張してくる。
[撫子]大丈夫、あたしがついてる。
それなら一安心だ。撫子さんの指示通りにエンジンを起動し、直進とコーナリングをそれぞれこなした。
横で見ていた撫子さんも、嬉しそうに私に拍手を送ってくれた。
[撫子]よく出来たじゃないか、見直したよ。
[player]初歩的なことだけなのに、大げさですよ。
[撫子]初心者は褒めて伸ばした方がいいって聞いたからな。それに、バイクに乗る時に一番大切なものは自信だから。
[player]それは確かに。撫子さんはいつもバイクを軽々と乗りこなしてますけど、いざ自分で乗ってみるとやっぱり怖かったです。特に、初めて一人であの風を感じた時は。
[撫子]そうだな。その恐怖を克服して初めて一人前のライダーになれる。バイクを自由自在に操って、バイクにしかない楽しみを味わえるようになるんだ。
その話をする間、撫子さんの目はキラキラと輝いていた。
[player]撫子さんは、どうやって克服したんですか?
[撫子]んー……ひたすら走って慣れるしかないと思うけど。でもバイクには危険が付き物だし、怖がるのも仕方ない。あたしも、下山する時雹に降られて、ぬかるんだ山道でスリップして、脇の森に突っ込んだことがあるし。
[player]ええ? それからどうなったんですか?
[撫子]それから? えーと。ドライブレコーダーが生きてたから、カバー・メーター・エンジンの修理代、あとタイヤ交換代は全部保険で済んだよ。
[player]いやいや、撫子さんはどうなったんですか、バイクじゃなくて。
[撫子]あたし? ……確かどっか痛めたけど、忘れたな。
バイクのどこが壊れたのかは覚えてるのに、自分の怪我は覚えてないんだ……。
[撫子]何だその変な顔は。そんなに驚くようなことかい?
[撫子]負傷する覚悟がなければライダーにはなれないし、そんなの一々覚えてられないよ。でもバイクの故障ははっきり覚えてる。大事な仲間が怪我したら心が痛むからね。
仲間か……。まあ確かに、私も大事にコレクションしている麻雀牌にヒビでも入ったら、自分が怪我するより悲しいかも。気持ちはわかる。
[撫子]もちろん、保険が降りない場合の修理費用が強烈なのも理由の一つだ。
急にリアルだな!
[撫子]この複雑な気持ち、わからないのも仕方がないよ。気にするな。
[player]……はい。仲間か……ああでも、ツーリングはいいですよね。非日常の中で見る景色ってすごく気分をリフレッシュできますし。そんなツーリングに欠かせないバイクだから、仲間と思うのもわからなくはないです。
撫子さんはそれを聞き、またキラキラと輝かせた目をこちらに向けた。
[撫子]あんたはそれをわかってくれれば十分だ。さ、引き続き訓練に集中してくれ。
[player]わかりました。
実技パートの完成度はやはり高い。もう少し言い回しとか専門用語について変えれば完璧だと思う。明日の面接も、これでうまく行くはずだ。
最後は今日出た意見について討論して、楽しい雰囲気の中で実技訓練を終えた。
一飜市の中心部に戻ってきた頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
[撫子]もうこんな時間か、早いな。せっかくだ、一杯付き合ってくれないか?
[player]明日は面接当日でしょうが……どうしようかな。