[選択肢]
・立直する
・立直しない
[プレイヤー]七筒を切って立直します。
[サターン]詳しい理由を聞かせてくれないか。
[プレイヤー]今の自分の河と手牌からして、あがり牌の数はまだ5枚ありますし、手牌の形も悪くない。それに、一筒は今のところ全部出てしまってますが、二筒はまだ出てませんので、まだ山に残っていて、裏ドラ表示牌になる可能性は十分にあります。もしそうなら、雀頭の三筒に裏が乗る期待もできますから。
[サターン]ハッハッハ、その通りだな。私はこれまで、ビジネスは注意深く、一つの落ち度も許さないほどの周到さをもってこそだ、そう思っていたのだが……。立直もなかなか有効だとは考えつかなかった。
[プレイヤー]これが麻雀ってやつですよ。もし点数などの他の要素も考慮するなら、更に多くの選択肢が考えられます。
[サターン]思った通り、君は麻雀に長けているようだな。君は……あの大会には参加しないのか?
[プレイヤー]大会?
[サターン]今日君の方からやって来たのは、以前君に聞いた件に進展があったから、だろう?
[-]サターンさんに促されて、やっと今日の訪問の目的を思い出した。そこで、四貴人の詳しい情報を彼に話した。それから、彼が気にしていた「魂天神社の麻雀大会」についても、より詳しいことを改めて話した。
[-]サターンさんは真剣に私の話を聞きながら、中指の第二関節でコツコツとテーブルを叩き、ブツブツと独り言を言っている。
[サターン]興味深い……主催者側はみな、大会のルールを憶えていないと。
[サターン]私が今しがた提案した「大会」とは、まさしくその麻雀大会のことだ。
[プレイヤー]それにしても、魂天神社の巫女ですら知らないような情報を、サターンさんはどうやって知り得たんです?
[サターン]ハハ、商人はみな、独自の情報網を持っているものさ。しかし君になら話してもいい。一飜市では、多くの情報屋が市井に紛れ込んでいる。それなりの報酬を支払えば、すぐに有力な情報が手に入るのだよ。
[プレイヤー]では、その人たちは、大会の情報をどうやって手に入れたのでしょう?
[サターン]四貴人について、最近とある「お告げ」を授かった者がいるらしいんだ……魂天神社の麻雀大会がまたすぐに開催される、というお告げを。
[プレイヤー]そんなことが!? いつ頃ですか?
[サターン]魂天神社の巫女殿の意向によるだろうな。結局彼女こそが、世間における魂天神社の神主の正統な代弁者なのだろう?
[サターン]しかしあのような天真爛漫な少女が、どの様にしてそんな重大な掟を定めるのか、想像もつかないな。
[-]確かに普段の一姫の様子を見ていると、そんな重要な大会で審判を行う所は、全く想像できないな。
[-]でも……よくよく思い返してみると、一姫はいつもたった一人で魂天神社を隅々までピカピカにしてるんだよな。他のことも、ワン次郎に助けてもらいつつ、ずっときちんと切り盛りしてるし。祭事なんかでも、これまで何か失敗した所を見たことがない。まあ、多少ボケっとしてるとこはあるけど。
[-]一姫って、食事量とタンヤオのせいで見過ごされがちだけど、間違いなく実力者ではあるんだ!
[プレイヤー]私は一姫を100%信じています。外からどう見えたとしても、一姫はずっと、魂天神社の巫女として上手くやっていますよ。
[サターン]君がそう言うからには、君への信頼と同様に、私も巫女殿を信じなければ。
[プレイヤー]サターンさんは麻雀大会には出場しないんですか?
[サターン]君と共に参加するということか?
[プレイヤー]はい。実は大会に誘えそうな友達が何人かいるんですけど、大体は出ると言うと思います。
[サターン]ならば私も、当然友人の期待は裏切れんな。ハハ、今日は伝説に対する疑いを晴らし、友人と約束まで交わすことが出来た。全く素晴らしい日だな。
[サターン]こんな日は、祝杯を上げねば。
[-]サターンさんのお話で、用意したオレンジソーダをまだお渡ししていないことに気付いた。あわてて取り出すと、保冷バッグに入れていたお陰で炎天下の影響を受けておらず、外気に触れたガラス瓶には、瞬く間に細かい水滴がついた。
[-]サターンさんはその様子を見て、手を叩き、少し離れた所にいた執事を呼び寄せた。執事がクロスで瓶についた水滴を拭き取り、私の手に返す。これまでの訪問では、執事が控えているのを見たことがなかったので、思わずまじまじと見てしまった。
[-]執事の背後にある金属製のラックの上にある、黒い木製のトレーに空の瓶が2本置かれているのを見つけた。遠すぎてはっきりとはわからないが、その形は、私が今持っているオレンジソーダ専用の瓶にそっくりだった。
[-]「エテルニテ」はお店のカラーを出すために、備品はほぼ全てオリジナルのものを使っている。この瓶も、礼奈ちゃんの叔父さんが一生懸命デザインしたもの。この時突然、小鳥遊さんの言葉が脳裏をかすめた。
[小鳥遊雛田]“Aさんなら、朝お店を開ける時に一度来て、飲み物を1杯買って行ったよ~。”
[-]A-37が来た場所とはここではないか? しかし、彼はこの前、確かにデリバリーの仕事を嫌がってたんだよな……。上の空といった様子の私を見かねて、サターンさんは私に声を掛けた。
[サターン]プレイヤー?
[プレイヤー]え?
[サターン]大丈夫か、ぼうっとしているようだったが。
[プレイヤー]いえ、何でも……つい長くお邪魔してしまったので、みんなの仕事に支障が出てないか、ちょっと心配になっちゃって。
サターンさんに本当の理由は話せかった。私ひとりの憶測に過ぎないし、それに、彼らが本当に知り合いだったとしても、軽々しく2人の関係について聞くのは失礼だ。
[サターン]申し訳ない、君が仕事に戻らねばならないのを失念していた。君と話しているといつもこうだ。思わず時間を忘れてしまうよ、ハハ。
[プレイヤー]私もです、サターンさんとのお喋りは本当に楽しいですから。
[サターン]本当か? それは非常に光栄だ。もし良ければ、「エテルニテ」での勤めが終わった後も、時々ここに来て、今日のように共に語らってくれないか。
[サターン]やはり、君は一飜市で一番の、正真正銘の友人だ。
[-]サターンさんの口ぶりには、嘘があるとはどうしても思えない。彼の交友関係は、あまり良く知らない。けど、こういう社会的地位が高い人には、きっと自分ではどうしようもないことがたくさんあるんだろうな。
[-]なら、どの勢力にも属していない私は、彼にとっては最も「無害」で、最も構える必要のない人間だ。だから、機会があればまた会いに来よう。
[-]私は笑って頷き、彼の別れの眼差しに見送られながら、別荘を後にした。
[-]夜帰宅し、家の中を見回した。屋根裏部屋の明かりがついていないのを見て、ハッと気が付き、あわてて駆け上がる。
[-]さようならとも、いつ戻るとも、何も言わないまま。屋根裏のテーブルの上、きっちりと置かれたお金を見た時、直感した。A-37が出て行ったことを。
[-]このお金の厚み……。計算違いでなければ、彼がこの夏「エテルニテ」で働いて得たバイト代ぴったりだ。
[-]A-37の行きそうな所について頭を巡らせたが、わかったのは、彼について知っていることがあまりにも少ないこと、彼はミステリアスな「お客様」に過ぎず、自分がいた痕跡は一切残さなかったこと、それくらいだった。今ここにあるベッドも、皴一つ見当たらないほど綺麗に整えられている。まるで、ここで誰かが眠ったことなど一度もなかったかのように。
[-]私はお金を全て封筒に戻して、ベッドサイドの引き出しに入れた。いつになるかはわからないけど、彼は絶対戻ってくる。人と人との絆は、そう簡単には消えたりしないから。
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