[player]それなら、どうして私にこんなことをさせるんですか?
[player]私は「幾度春」に一度も行ったことがないですし、特定の分野の専門知識もありません……うーん、魔法も使えないし、超能力もないし。
[player]「金持ちは科学技術に頼り、貧乏人は突然変異に頼る」みたいなSFの定番も私には当てはまりませんし。
玖辻は私を見ながら軽く頷いた。どうやら私の言葉に同意したようだ。
[玖辻]確かにそのとおりだな。けど、アンタが平々凡々なヤツだからってそう自分を卑下しなくていい。
[player]お認めいただき、大変光栄に存じマス……
[玖辻]でもま……誰から見てもそんな風に映るとは限らないんだぜ。一飜市中の上流階級から小学生に至るまで、アンタとなら誰だって友達になれる。こういうネットワークは情報屋なら誰もが欲しがるもんさ。
[player]それは私が善良な市民だからです。
[玖辻]アンタがそう言うなら、そうなんだろうよ。「ストリクス」の調査で、アンタが本当に一飜市に住むごく普通の善良で犯罪記録も一切ない市民だということがわかった。
[player]法律を遵守するのは市民として当然の義務なんですが、あなたにわかってもらうのは難しそうです。
[玖辻]んだよ、まーた人を無法者みたいに言ってよォ。実際に調べてみろ、俺が清廉潔白な人間だってことがわかると思うぜ。
[玖辻]けどな、旦那には普通の奴には出来ないことが一つある。自由に魂天神社に出入りし、尋常じゃない経歴を持つ巫女からご主人と呼ばれるのは、一飜市中でも旦那一人だけだ。
[player]いや、後半はまあわかりますけど、自由に魂天神社に出入り出来るっていうのは誰でもそうですよね? 「無料麻雀魂天会館」って呼ばれてるくらいだし。
[玖辻]出入り出来るのは神社のごく外側の施設だけだ。全体の規模からして、本殿の後ろには一般開放されてないエリアがある。それもかなり広い。
[玖辻]俺達の推測通りなら、旦那ならそこに入れるはずだ。
[player]人の好奇心を気軽に刺激しないでくださいよ。魂天神社に好奇心を持ちすぎると、猫に殺されるかもしれませんよ。
[玖辻]俺ァただ、親切心でこの情報を共有してやったんだ。行くかどうかは旦那自身で決めな。
[玖辻]もちろん、立ち入ったことで何か取引したいことが出来たら、いつでも俺ンとこに来てくれ。
[player]つまり、あなたはそれが理由で私に行かせることにしたんですか?
[玖辻]そうだと言ったら信じるか? 魂天神社の最も謎めいた領域にも入れる奴なら、東城玄音に近付くのだって難しくないはずさ。
[玖辻]一種の大博打だと思ってくれ。アンタが東城玄音を封じ込めている厳重な箱の蓋を開けられるヤツだってことに賭けてんだよ。
[player]どこが大博打なんだか。明日私が任務に失敗しても、あなたには何の損失もないし。
[玖辻]ンなこたない。こちとら汗水たらして働いて稼いだ金をかけてんだぞ。
玖辻は話しながら私をじろじろ観察したかと思うと、突然視線を私のスマホの画面に定めた。さっきパスワードをメモしたまま、ロックし忘れていた。彼は私のスマホを奪い取り、画面をじっくりと眺めると嫌悪感も露わに私を見た。
[玖辻]旦那ァ、「kutsujichouikemen」なんて誰もが知ってる事実だぞ、メモる必要なんてあるか?
[player]うーん……この文字列が意味と一緒に私の脳裏に浮かんだ日には、私の顔、スタイル、礼儀作法や美徳、清らかな性格、果てには魂まで根こそぎ破壊されると思います。
玖辻は冷たく笑うと、メモの「kutsujichouikemen」の文字列を素早く削除した。そしてアドレス帳を開き、電話番号のような数字を入力し、名前の部分に力強く「超絶イケメン玖辻」の八文字を打ち込んだ。
[player]あなた……まさか全部のアカウントをこのパスワードにしてるなんて言いませんよね?
[玖辻]ふん、そんなわけねぇだろ。こんなパスワード、どう見てもダミーじゃねぇか。信じる奴がいるたァ驚きだぜ。
[player]は?
[玖辻]つー訳で、覚えられないんじゃないかって心配はしなくていい。本当の暗証番号はアンタの誕生日だからな。
もしこれが恋愛映画なら、ロマンチックな展開だと思うかもしれない。
もしこれが友情映画なら、相手のために喜んで犠牲を払うかもしれない。
しかし会うのも二度目の、ほぼ初対面の人相手じゃ、この情報はあまりにも行き過ぎだ。彼とはもうすっぱりと縁を切りたい。
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