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撫子さんはこういうの苦手なはずだ。

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写真は苦手って言ってた気がするから、本当は撮りたいけどここは断っておこう。二人旅なんだし、撫子さんの気持ちも考えなくちゃ。
[player]いや、大丈夫です。お気持ちだけありがたくいただきます。
カップルと別れて、私はさっさと撫子さんのところに戻った。
[player]おまたせ。
[撫子]今どきの若者ってやっぱ写真好きだよね。あんたも一枚撮るか? あたしが撮ってやるよ。
[player]それより、完全に日が落ちるまでどっか散歩しに行こうよ。
[撫子]せっかく来たのに? ここが一番景色がいいはずだけど。
[player]いい景色を見て心身をリフレッシュさせるために旅をして来たのに、この人混みじゃ、どんなにいい景色でもよく見えないよ。
撫子さんはそれを聞いて笑った。
[撫子]フン、いいだろう。ついて来な。
[player]また「後悔はさせない」?
[撫子]何だい、今後悔してるってこと?
[player]冗談だよ。今日は楽しかったし、もっと楽しくなると思ってる。
撫子さんの手を取り、行動で気持ちを示した。
夕日を背に、私たちは人混みを抜け、足早に展望台から離れた。
[撫子]日が落ちる前にあそこまで行くぞ!
[player]わかった!
バイクを起動させ、人が集まる展望台周辺から、開発されていない雑木林の奥へとひたすら走った。
夕日に見守られながら、荒野を走るバイクは更に加速する。地平線は後退しつつ、より広い世界を私たちに見せてくれる。
[player]すごい!
思わず声を上げた。
「観光スポット」に行くのではなく、誰も歩いたことのない場所へ、勇気と共にひたすら前進する……これこそが撫子さんの好きなバイク旅なんだろうと思った。
[撫子]ここはどうかな。ようやく記憶の中のイメージに近づいて来たよ。
私たちは広い道を外れた崖の上にバイクを止めた。さっきまでいた展望台からそこまで遠くないが、観光地として開発されてはいない。
[player]ここからは川が見えないから、開発を免れたのかもしれないね。
[撫子]かもな。悪いな、今日は珍しい夕日を見せたかったんだけど、結局ありふれたもんになっちまって。でもあんたなら気にしないか。
「九つの夕日」は確かに絶景だったが、この穏やかな自然と風も清々しい気持ちになって良い。
[player]撫子さんと一緒に見られたし、満足満足。今日はありがとう。
[撫子]こちらこそだ。誰かと一緒なら何しても楽しい、なんて昔のあたしなら絶対思わなかったけど、今日はちょっと考えが改まったよ。
[撫子]二人で行くバイク旅は思ったより楽しかった。また一緒に何かやろうぜ、PLAYER。
[player]喜んで。
ゆっくりと落ちていく夕陽が、とうとう一条の光を残すのみとなった頃、撫子さんはスマホを取り出した。
[撫子]そうだ、二人で写真を撮ろう。この一風変わった旅の記念に。
[player]わかった!
パシャッ――カメラが私たちと夕日を収めた。
でもなんというか、撫子さんの撮る写真、ちょっと……
[player]今までのCatChatに投稿された写真に、人がほぼ出てこなかった理由がわかった気がする。
[撫子]なんだよ、リアリティがあって美しいだろうが。あんたの顔も可愛く撮れてるし、文句あんのか? あ?
撫子さんは私の肩を抱き、スマホを私の目の前に突き出して写真を見せた。
楽しそうに笑う撫子さんを見ると、写真の中の私の顔が真っ黒なのもどうでも良くなってくる。
[player]そうだね、可愛い可愛い。