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密着取材を続ける

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[-] 取材依頼書では、撮る内容についてはっきり指示されていなかった。しかし、寺崎さんは「読者が見たいと思うようなものを」と言っていた。よし、決めた。
[player] 九条さん、午後のプライベートの時間も密着させてほしいんだけど、良い?
[九条璃雨] え? メイドの仕事をしていない時間も取材するということですか? 取材依頼書には必要とは書かれていないのですよね……既にあなたは結構な面倒事をこなしていますし、そこまでしなくても良いのでは?
[player] いや……厳密に言うと、これは私の考えなんだ。
[player] 他の人のことはわからないけど、少なくとも私だったら、メイドの仕事をしていない時の九条さんを知りたいと思うはず。
[九条璃雨] 仕事をしていない時の、わたくしを……?
[player] うん、だって、メイドの仕事の内容自体はすぐ想像がつくけど、メイド業に勤しむ九条さんの人となりや、この仕事を選んだ理由、それに普段どうやってこの仕事と生活を両立させてるのか……そういう、より「人」を感じられるネタなら、よりみんなの興味を引けそうじゃない?
[player] 少なくとも、私はそういうのが見たいなって。
[九条璃雨] ……わかりました。大変な思いをしても構わないと言うのなら、わたくしは構いません。……では、行きましょう。仕事以外の時間、わたくしが何をしているのか、見せて差し上げます。
[player] うん!
[九条璃雨] 仕事が終わると、まず私はここで日々のトレーニングをします。
[player] ……「日々のトレーニング」って、テコンドー黒帯同士の手合わせのこと?
[player] 意外にも、九条さんが最初に向かったのはテコンドー道場だった。うわっすごい、道場の壁に、相手を倒す道着姿の九条さんの写真が貼られてるぞ。
[九条璃雨] たかが黒帯三段です。元々、千織様をいじめる者が現れた時用に身につけたスキルでしたので、それからはもう試験を受けていなくて。
[player] てことは、実際の実力は段位以上にあるってことか……
[-] 普段は手加減してくれているっていう九条さんの話、本当だったんだ。ありがたや……。
[九条璃雨] トレーニングを終えたら、ついでにお店を回って、欲しいものを買います。
[player] うんうん、これは想像がつくなぁ。女の子はみんな、ショッピングが好きだもんね。
[九条璃雨] 例えば、手芸店に行って、千織様に美しいワンピースを作って差し上げるための生地を買ったり、日用品店で新しい家事道具をチェックしたり、本屋に行って、より便利なスケジュール帳や新刊のレシピ本、収納本のベストセラーといった本を探したりしています。
[player] 女の子のショッピングって、そういうものじゃないよね!?
[九条璃雨] お店を見て回り、気に入ったものを買ったら……
[-] 生地や日用品、本でいっぱいの袋を持ってほくほくの九条さんは、不意に歩みを止めた。
[player] ん? 帰るの?
[九条璃雨] ええ、これまではそうだったのですが、最近はもう1つ好きなことが増えました。それは、こちらで一息つくことです。
[-] 九条さんの視線を追うと、そこは道端にある茶屋だった。
[player] えっ……お茶屋さん?
[九条璃雨] はい。これまでは、メイドの基本スキルだからという理由だけで、お茶を勉強していました。本当の意味でお茶の世界に注目し始めたのは、先日魂天神社で先生とお茶の心得について語り合ってからです。
[九条璃雨] お茶について学んでからというもの、お茶を淹れる度に自分の心身が落ち着き、気持ちが晴れるのを感じるようになりました。……あら? そんな風にわたくしを見て、どうしたのですか?
[player] いや……ただ、今日はこの取材を機にいろんな九条さんが見られて、いろんな話が聞けて、嬉しくて。
[九条璃雨] そ、そうですか? あなたが喜ぶポイントって、本当に変わってますね……。さあ、お茶を飲みに行きましょう。ここまでの撮影お疲れ様でしたということで。
[player] あはは、じゃあお言葉に甘えて。
[???] キャーッ! 私のバッグが……! ひったくりよ、捕まえてー!
[-] 突然聞こえた叫び声に、私達は足を止めた。人影がすぐそばをビュンと走り抜けていく。気付けば、私の手元には九条さんの買い物袋があった。九条さんはというと、既にその人影を追いかけていた。
[-] 慌てて、アクションカメラを引っ掴んで九条さんの後を追った。交差点を抜けて追いつくと、ちょうど九条さんが泥棒にドロップキックをくらわせ、地面に組み伏せた所だった。
[-] 周囲からは感嘆の声が上がった。
[通行人A] わ~……かっこいい! アクション映画のワンシーンみたい!
[通行人B] すごすぎる。あの人、警官? でも、メイド服を着てるよな?
[通行人C] コスプレ? どこかのメイド喫茶の店員とか? お近づきになりたいなぁ……
[-] 野次馬が興奮して議論を交わす中、九条さんはひったくり犯からハンドバッグを取り返し、バタバタと追いかけてきた持ち主に手渡した。
[九条璃雨] どうぞ。ここは通報して、後は警察に任せましょう。
[バッグを盗られた女性] ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます……
[バッグを盗られた女性] あの、お姉さん、お名前は? どうやってご連絡すれば……?
[九条璃雨] ああ、バッグを取り返すほんの少しのお手伝いをしたまでですし、名乗るほどの者ではありませんよ。わたくしはただのメイドですから。
[バッグを盗られた女性] メ、メイド……あっお姉さん、待って!
[-] 九条さんがすごいスピードで歩いてきて、私の肩をポンと叩いた。
[九条璃雨] 行きますよ!
[player] え?
[-] 言うが早いか、九条さんは飛ぶように走り出した。それから一秒と経たずに、私は人に囲まれてしまった。
[通行人A] あなた、あのお姉さんの仲間!?
[通行人B] ねえねえ、あの人誰? 教えてくれない?
[通行人C] 撮影してたの? あの子、スターか何か? それともインフルエンサー? 名前を教えて!
[player] あの、すみません……すみません……彼女は本当にただのメイドで……失礼します……あの、通してください……うわ~、くじょ……メイドさーん! 待ってよー!
[-] その日、私と九条さんは、寺崎さんから課された撮影ミッションを全て無事に終えた。九条さんは念願のクマのぬいぐるみを手に入れ、私はより大切なものを手に入れた。そう、より生き生きとしていて人を惹きつける九条さんの新しい一面をね。