[選択肢]
・イブさんが自分で決めるのを待つ
・先にリリィの事情について理解しておく
[-]よくよく考えると、礼奈ちゃんの言うことは最もだと思う。イブさんだって、いっぱしの大人だ。どうしても安心できないなら、私も一緒に行けばいい。彼女がいいよって言えばだけど。
[-]納得したら、すっかり気が楽になった。ついでに身体も軽やかになり、知らず知らずのうちに掃除を終えていた。
[-]ドアベルの音とともに、約束通りイブさんが現れた。入ってくるやいなや、私に熱烈なハグをしてくる。
[イブ・クリス]プレイヤーさん、私、リリィを見つけられました!
[-]いい知らせには違いない。でも、喜ぶべきか悲しむべきか、咄嗟にはわからなかった。朝からずっと心配していたことだったし。
[プレイヤー]よかった! でも……一緒じゃないの?
[イブ・クリス]はい……会えたのですが、少し……ほんの、ほんっの少しですが、問題が起きまして。
[-]イブはやや落ち込んでいる様子だったが、先ほど礼奈ちゃんが持ってきた水を軽やかに呷った。グラスにぶつかった氷が、澄み渡った音を響かせる。
[プレイヤー]どうしたんですか? 聞いてもいい?
[-]イブは顔を上げて私を一目見ると、すぐに項垂れてしまった。彼女の思いを察するのは簡単だった。全部顔に書いてあったから。
[イブ・クリス]リリィ……あの子、私と会った時、私が思い描いていたよりも嬉しそうではなくて。あの子は……もしかしたら、私と会いたくなかったんじゃないかと……
[-]私は何も言わず、彼女の傍に座っていた。気持ちが晴れてきたのだろうか、口ぶりが少しずつ軽やかになっていく。
[イブ・クリス]あの子、昔と全然違った。そう……あまりに変わりすぎて、別人のようでした。でも、再会した時、私を見たあの目は、昔のように柔らかくて、清らかで、希望を宿した眼差しをしていました。
[イブ・クリス]貴方は、あの子にもやむを得ない事情があるんじゃ、と言っていましたね……ごめんなさい。どうして出ていったのかなんて、誰かに尋ねていいことじゃなかった。もし私さえもリリィを信じなくなってしまったら、この世界で他に誰があの子を信じられるでしょう。
[-]イブさんは、離れ離れになったその友達が、いつか絶対に自分のところに戻ってくると信じるばかりで、それ以外の可能性についてはまるで考えていないようだった。私はリリィさんの人となりをあまりよく知らないから、意見を言うのも難しい。でも、この期に及んでも、私はイブさんの思い込みがいつか本当になると信じたかった。
[-]それが、彼女たちがいつか仲直り出来る唯一の方法だから。
[イブ・クリス]ところで、プレイヤーさん、今日はあなたにお願いがあって来ました。
[プレイヤー]なんでしょう?
[イブ・クリス]あの、貴方に、麻雀を教えてもらいたいのです。
[プレイヤー]いいですけど、どうして麻雀を覚えたいんですか?
[イブ・クリス]リリィは完全に私を拒絶したわけじゃない。「一飜市で次に行われる大きな麻雀大会で、もし私がリリィに勝てたら、一緒に北国に帰る」と、そう言いました。
[-]イブは少しためらってから、こう続けた。
[イブ・クリス]麻雀は、北国の教会では上層部の人しか出来ない遊びでした。なので、まさか自分が麻雀を打つ必要に迫られる日が来るなんて、思いもしなかったんです。だから……お願いします。
[-]イブさんのお願いを前にして、いかに北原リリィに勝つのが難しいかを説明するのは大変だった。相手は、麻雀の腕前で、四貴人の一人にまでなった人なのだ。でもまあ、そんなのやってみなきゃわかんない……かも? ひょっとしたら、イブさんには麻雀の天賦の才がある……かもしれないし……。
[プレイヤー]わかりました。でも、教師役が出来るのは、スタートラインに立たせることだけ。その後の練習は、あくまで自分の力でやるもの。私が教えられるのは基本知識と、実戦を経験する中で培ったテクニックが少し。そこからどれくらい上達できるかは、イブさん個人の努力にかかってるんだよ。
[イブ・クリス]ご安心下さい、先生! 努力することにかけては、私は誰にも負けません!
[-]イブさん向けの麻雀指導について計画を立てていると、一姫がアイスティーラテを2杯持ってきてくれた。
[一姫]にゃにゃ、さっき店長見習いにゃんがミニクッキーをくれたにゃ。イブの友達を見つけたご褒美って言ってたにゃ~。
[イブ・クリス]友達を……見つけた? それは……プレイヤーさん、もしかして、昨日からずっとリリィを探してくれていたのですか?
[プレイヤー]さっき、君が見つけたって言ってたから、このメモはもういらないかなって思って、言わなかったんだ。
[-]私はポケットから、リリィさんの居場所について書かれた小さなメモを取り出し、イブさんに渡した。
[-]イブさんは顔を伏せて、親指で繰り返しメモの裏側をこすっていたけど、しばらくしてようやく顔を上げ、軽やかな声で「ありがとう」と言った。彼女の目は、少し赤くなっていた。
[イブ・クリス]そもそも私たちは偶然出会っただけなのに、貴方は十分すぎるほど親身になって助けてくださって……こんな助けを受けられるなんて、思ってもみませんでした。
[イブ・クリス]プレイヤーさん、貴方に出会えて、本当に良かった!
[-]今にも涙が溢れそうなのか、イブさんは振り返って目元を擦った。もう一度私のほうへ向き直った時、最初に出会った時のようなスマートで明るい顔つきになっていた。
[イブ・クリス]これから、一飜市にいる間、一緒に麻雀を打って、ご飯を食べて、仕事をして、遊んで……ああ、何でもいいんですけど、つまり! 私たち、何でも一緒に、力を合わせられる、いい友達になりましょう、プレイヤー!
[プレイヤー]うん!
[-]イブとリリィさんの結末は、私が期待してたような、あっさり再会、そして帰郷……ということにはならなかった。でも、イブは、もうしばらく一飜市に滞在するそうだ。もうしばらくいられるなら、リリィとのわだかまりを解消し、そして……私たちが仲良しの友達になるには十分だろう。
[-]あ、でも。私達って、もう既に友達になってるんじゃ……!? だったら、これからは、もっとたくさん麻雀を打ちたいな。
[-]そして、イブの願いが早く叶いますように。
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