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ちょっと不安だ。

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ちょっと不安だ。
……
[ジョセフ]突然黙り込んでどうした、My Friend?どうしてそんなに真剣な顔をしてるんだ?
[player]っ、いや、なんていえばいいのか……。ジョセフさんが前に進むために、どれだけのものを人にあげて、どれくらいの価値を手放したのかを想像してた、かな。
[ジョセフ]ハッ、Let me see……「トレジャーハンター」の続編を7作くらい作れたんじゃないか?
[player]うわぁ……。それを聞いちゃうと、ますますもったいなく思っちゃうな。
[ジョセフ]もうあげちまったものは、惜しんでもしょうがないぜ。それに、この世にはまだまだ無数の宝物が俺を待っているんだ、気にすることないぜ、My Friend。
[player]それもそうですね。……あ、ドアノックの音がしたみたい。ちょっと見てきます。
……とりあえずごまかした。
さすが冒険家の洞察力。私がすこし黙り込んだだけで、考えを彼に見透かされてしまった。
私は嘘をついた。さっきの沈黙は、本当は不安に感じたからだった。冒険のため、前へ進むために、犠牲を厭わないその生き方は確かに尊敬できる。
でも過去へキッパリ別れを告げられる彼のことだから、私との思い出や、一飜市での思い出が、いつか彼の冒険の足枷になってしまわないか不安でしょうがない。
もしそうなったら、ジョセフさんはこの「思い出」も捨てるのかな?
飲み物とお菓子を足して、鑑賞会は続いた。でも全然内容が頭に入って来ないまま、こんなことばかり考えていた。
結局、答えは見つからなかった。というより、答えを探そうと思えなかった。
そしてもちろん、彼に直接に聞くことも出来なかった……
その後ずいぶん長い間、一飜市にジョセフさんの姿はなかった。彼が雀卓を囲む時の豪快な笑い声が懐かしいと感じるくらいだった。
冒険家のスターなんだから、本来はロケとかで毎日忙しい人なんだし、姿を見せる暇がなかったとしてもおかしくはない。でもあの日のことを思い出すと、なんとなくモヤモヤする。
彼がこの街に暮らしているという実感は日に日に薄れていってしまうような気がして、気が気でなかった。そしてある日、その不安がより一層現実味を増した。
[player]ジョセフさんが一飜市を出るって!?
[藤田佳奈]一応「可能性がある」くらいのことらしいけど。この前海外からのオファーがあって、ジョージを番組で使いたいって。
[player]ああ……。ってことは単に出張ってことか……。
[ワン次郎]あの声デカ兄ちゃんここから出ていっちまうのか?あの声にゃ雀卓で何回も驚かされたけど、今後もう一緒に打てないって思うとやっぱちょっと寂しいワン。
[player]バカ言わないで、ジョセフさんは一時的に出張するだけだから。もう帰ってこないとは限らないし。
[藤田佳奈]でも、どうだろうね。その会社はうちよりは小さいけど、オーナーが有能で、人脈が豊富だって聞いたことがあるんだ。あそこなら、今まで行ったことのない場所のロケに先輩を連れて行けるんじゃないかな?
[藤田佳奈]それに元々先輩とも知り合いだったみたいで、「昔話でもするか、HAHAHA!」って言ってたよ。そうそう、出発する前に、先輩真剣な顔で社長の所に行ってたな……おっと、立直。だから、そのままそっちに移籍、なんてこともなくはないかも?
[player]そ、そうなんだ……。
[ワン次郎]旧知の仲なら、仕方ないと言えばそうかもな……って[player]、オマエなんて牌捨ててるんだワン!
[player]あ……え?佳奈ちゃんいつの間に立直してたの?やば、隣の牌切ったかも……!
[藤田佳奈]ファンさん、手が滑ったってなんて言わせないよ。ロン!一発だよ!
集中力が切れたせいだ。どれどれ、立直、一発に一盃口か、高目だなぁ……。
……
でも、ジョセフさんが一飜市からいなくなるって、本当に?
[藤田佳奈]あら?ファンさん、1000点多かったよ。佳奈ちゃんみたいな真面目なアイドル相手だったから返してあげるけど、他の人ならそうはいかないよ?
[player]あーあー……。ごめん、ありがとう……。なんか調子が悪くなってきたから、この半荘終わったらお先に失礼するね。
[ジョセフ]そうだ。最初はホームビデオが収められていると思ってたんだが、実際は映画だった。それじゃ、どうしてこれのタイトルが「青春」だったと思う?
そう言った次の局で、また跳満の直撃を喰らい、その日は散々な結果で対局を終えた。
季節が変わり、気温もますます下がってきた。今月に入ってからは、毎週のように雪が降っている。
あれからというもの、私は未だにジョセフさんと会わず、連絡も取っていなかった。佳奈ちゃんの言ってた通りに、いつの間にか一飜市を出て行ったんだと思っていた。
結局、今度も前に進むために、「思い出」を断捨離したんだな……。
[店員]お待たせいたしました。こちら商品になります。こちら、ご自身でお持ちになりますか。よろしければ、無料の配送サービスはいかがでしょうか。
[player]いえ、結構です。自分で持って帰ります。……自分の手で渡さないとプレゼントにならないし。
クリスマス・イブ。たしか去年の今日は、ジョセフさんがサンタさんのコスプレをして、日付が変わるタイミングでヘリから神社にジャンプして、私たちにビッグサプライズをしたなぁ……。
そのせいか、一姫は今年もこういうサプライズを期待しているらしい。飼い主としてその期待に応えなければ……と、数日前から準備を始めた。サンタになるためにはお金も結構かかるし、ヘリやジャンプはさすがに無理だけど、みんなが喜んでくれればそれでいいや。
あなたもきっとそう思うよね、ジョセフさん。
正直に言うと、私は彼のように気前がいい人間じゃない。こんなことをするのは、自分をごまかすためだった……彼がまだここにいるという錯覚をするために。
[サンタさん]Merry Christmas!素敵な夜を過ごせよ!My Friend!
[player]ありがとう、あなたも。
[サンタさん?]こんな日に、なんか考え事でもしてるのか、HAHAHA!
あれ……?何だろう、この聞き覚えのある笑い声は?
振り向けば、さっきのサンタさんは白い付けひげを取って、見る人を安心する爽やかな笑顔を浮かべている。
[ジョセフ]よう、久しぶりだな!クリスマスだぜ、元気出せよMy Friend!
……
私はすぐに現実だとは思えず、彼の上がった口角をつまんで引っ張ってみた。
[ジョセフ]なんだ?何をやっているんだ、My Friend?
[player]いや、夢なんじゃないかと。
[ジョセフ]それは自分の顔をつまむやつじゃないか!HAHAHA!それに、全然力が入ってないぜ!
[player]そっか、じゃあ遠慮なく……。
[ジョセフ]俺はずっとここに住んでるぜ?
[ジョセフ]Ow!?いだだだ……Give up!Give——up——!
[ジョセフ]痛かったぜ……Friend、本当に遠慮せず来るとはさすがだ……
[player]まぁ、一応お仕置きもかねてですけどね。
[ジョセフ]おしおきって?
[player]だって、……まぁそれは置いといて。一飜市を出て行ったんじゃなかったんですか?わざわざ戻ってきたのは、クリスマスを祝うため?
[ジョセフ]出て行った?何の話だ?
その日、雀卓であった会話をジョセフさんに話した。彼は苦笑いしてこう言った。
[ジョセフ]なるほどな。確かにうちの嬢ちゃんの言う通り、俺を誘ったのは俺の旧友だった。向こうに行って昔話もしたし、番組のキャストとしてしばらく参加したのも本当だ。でも、移籍だけは誤解だぜ。
[player]いきなり何ヶ月も姿を見せなくなって、連絡の一つもよこさなかったんだよ?誰でもあなたはもう戻ってこないって思うでしょうが!
[ジョセフ]それはすまなかった、My Friend。でもわざと連絡しなかったわけじゃないんだぜ。とある遠洋でのロケでちょっとした事故が起きて、俺とスタッフたちは無人島に漂流したんだ。その時電子機器が全部海水でダメになっちまってな。
[ジョセフ]そこで何ヶ月か漂流生活をして、やっと近くを通った舟に拾われて、陸に戻れた。戻ってすぐここに帰るつもりだったが、旧友がお詫びにもう少しもてなすと言って聞かなくてな、それで今になったってわけだ。でもまあ、クリスマスに間に合ってよかったぜ。
……
[ジョセフ]……信じがたい話だとは思うが、これマジなんだぜ?My Friend。
[player]まぁ、信じますよ。こんな大変なことを軽く冗談めかして言うあたりは、やっぱりジョセフさんらしいですね。
[player]でも、せめて陸に上がったら電話くらいして下さいよ。
[ジョセフ]いや、余計な心配かけるより、会って笑い話にしちまう方がいいかと思ってな。
[player]まぁ、考え方はわかりますけど。っと、そろそろ時間だ。一姫が待ってるので、とりあえず神社に行きましょう。
[ジョセフ]OK!俺もちゃんとプレゼントを用意してるぜ。あいつらの驚いた顔、見るのが楽しみだ!
[ジョセフ]そういえばMy Friend、おまえにもプレゼントを用意したかったんだが、何にしようか迷って決められなくてな。なんか欲しいモンはないか?長いこと心配かけちまったからな、なんでも言ってくれ!
[player]と、とりあえず、歩きながら話しましょうか。
[player]……ってことは、最初から向こうの会社に行くつもりはなかったんですか?
[player]あっちのオーナーさんが結構有能で、あなたを行ったことない所にも連れていけるんじゃって佳奈ちゃんが言ってました。興味を引かれたりはしなかったんですか?
[ジョセフ]いやー、今回の事故であいつも懲りたのか、冒険番組からは完全に手を引くつもりらしい。たとえ俺がいくら興味を持ってたとしても、それじゃしょうがないよな。
[ジョセフ]それに比べると、やっぱりうちのボスは度量が違うぜ。俺がなにをやらかしても、やりたいようにやらせてくれる。まだ行けていない場所へ行く時も、ちゃんと話を通してくれるしな。
[ジョセフ]それに何年もここで暮らしてるからな。おまえらとの付き合いはそうそう捨てられるもんじゃない。
[player]……そういう付き合いが、ジョセフさんの負担になってませんか?あの宝物たちみたいに。あなたが本当に欲しいものを追い求めるのに邪魔になるような……。
[ジョセフ]なぁに言ってんだ、My Friend。はぁ……すまん、ちょっとタバコ吸うぜ。
ジョセフさんは一旦足を止めて、一飜市の港がある方を向きながらタバコに火を点けた。
[ジョセフ]あのな、俺は過去を捨てなければ前に進めないと確かに言った。でも、全ての過去がみなそうだという訳ではないぜ、My Friend。
[ジョセフ]Grandpaが言ってたんだ。舟が安心して海に出られるのは、帰れる港があるからだってな。
[ジョセフ]俺にとっての一飜市は、その港だ。俺がどこに出かけようと、ここには俺を待ってくれて、歓迎してくれる人たちがいる。だから俺は絶対にここに帰ってくる。
つくづく言葉の力は不思議だよな。たった少しの言葉だけで、ここ数ヶ月浮き沈みの激しかった心を楽にしてくれた。いや、言葉の力というより、この人が持つ誠実さによるものが大きいのかもしれないが。
[ジョセフ]それに、「トレジャーハンター」の続編を一緒に見る約束だってあるぜ?
[player]ふーん。じゃその約束を果たしたら?
[ジョセフ]その時にゃまた別の約束が出来るさ、My Friend。
神社の鳥居前に着くと、中からご飯のいい匂いと共に、賑やかな笑い声がした。
[player]結構人がいるみたいですね。さぁ、早く入りましょう。
[ジョセフ]Wait!その前にMy Friendよ、欲しいプレゼントはもう決めたか?
[player]ああ。そっか、その話がありましたね。
[player]でもそれって、普通は贈る方が考えるものじゃ?まさか……何をプレゼントすればいいか思いつかない、なんてことはないですよね?
[ジョセフ]HAHAHA!俺が決めていいってことだな!俺の性に合ってるぜ!
[ジョセフ]じゃ、そうさせてもらうぜ。おまえには「招待」をプレゼントしよう。もし時間があれば、俺と一緒に冒険に出ようぜ。
[player]うーん……いいですけど、でもどうして?
[ジョセフ]いきなりだと思うよな。俺も無人島でいきなり思いついたんだ。
[ジョセフ]あの島で面白いものをたくさん見てな。おまえ、俺のコレクションを見たかったって言ってただろ?だったらコレクションなんかよりも、大自然の中、その目で宝物を見たほうがいいんじゃないか……って思ったんだ。
[ジョセフ]だからFriendよ、今度俺のPartnerとして冒険に出るという誘いを、プレゼントとして受け取ってくれないか?
[player]……うーん、変なハプニングに見舞われないって保証つきなら、いいよ。私は何ヶ月もサバイバルする自信はないからね。
[ジョセフ]HAHAHA、初心者にも優しいルートを考えてやるから、安心しな!さ、中に入ろうぜ。あいつらの喜ぶ顔、早く見たくて待ちきれないぜ!
[player]待って、まだ言ってないことがある。
もうちょっと早く言えばよかったのに、タイミングがなかった。
一番最初にこの人と再会したんだから、一番最初にこの言葉を言う資格は私にあるはず。
[player]お帰りなさい、ジョセフ。
[ジョセフ]……HA、HAHAHAHA!ただいま、[player]!