You are here

ロイヤルシアター

ロイヤルシアター
categoryStory: 
Story: 

[player] はぁ、どこを見ても長蛇の列だな……
[-] 遊園地を半日ぶらついていたのだが、目当てのアトラクションに乗れなかったばかりか、全身汗だくになってしまった。
[player] やっと自販機を見つけた……スマホ決済可能か……科学の進歩に感謝……
[-] スマホをかざして支払いしようとした時、スクリーンに「高温注意」というオレンジ色の警告が映し出された。私は、ジェットコースターに並んでいる大勢の観光客への畏敬の念を更に深めた。
[アナウンス] お客様にお知らせです。「ロイヤルシアター」の次の公演は、五分後に開始します。鑑賞を希望されるお客様は、お早めにお越しくださいませ。
[player] お芝居かぁ……そこなら空いてそうだ。
[-] 『遊園地パス』を取り出すと、ちょうどそのアトラクションにはまだスタンプが押されていなかった。思い立ったが吉日、今から行ってみよう。
[-] 入口に向かうと、ふっくらしていて親しみやすい雰囲気の若い受付スタッフに、『ロイヤルシアター観賞ガイド』を手渡された。
[スタッフ] 上演中は、ガイドに記載されているルールを守っていただきますよう、お願い致します。
[player] わかってます、こういうのを観る時は大声を出しちゃいけないって、小三の時先生から教わりましたから。
[player] それ以来いつもルールを守ってます、任せてくださいよ。
[スタッフ] あはは、そうですか。ではごゆっくりお楽しみください。
十分後
[-] 豪語したものの、まさかこんなに早く自分の面子が潰れることになるとは……
[ジュリリ(女優)] あー。ロミロ、あなたはどうしてロミロなのー。
[ロミロ(俳優)] 父がつけた名だからー、僕にも理由はわからないんだー、愛するジュリリよー。
[player] 清々しいまでの棒読みだ……
[-] 私は耳を澄ませた。周囲から、大小様々ないびきが聞こえてくる。
[player] 寝ちゃった人がこんなに多いのも頷けるよ……。
[-] 私も寝てしまいたいくらいだったが、『ロイヤルシアター観賞ガイド』に書かれていたことを思い出して、目を覚まそうと頬を叩いた。
[-] きっと、制作側もこの劇のお粗末さについてはよくわかっているのだろう。だから、ガイドの1ページ目に強調された黒い太字でこう書いたのだ。「公演中には、予告なくお楽しみポイントが登場します。出口で出題される問題に3つ以上正解したお客様にのみスタンプを押しますので、最後まで見逃がさないようにしてください」と。
[-] でも、全ての原因を役者の演技力が低いせいだとするのも違うと思う。外が人で賑わっている割に、この劇場はがらんとしていて寂しい感じだ。
[-] ほとんどの観客は席につくなりスマホをいじり出し、涼むための休憩所目的で来ているのが丸わかりだった。こんなに冷え切った観客が相手では、演技に身が入らないのも無理はない。
[-] やる気のない役者は、当然観客の注目も集められない。この悪循環を断ち切るには、誰かが素晴らしい演技を披露してくれることに期待するしかないだろうな……
[???] フッフッフ……なんて無知で滑稽な回答なんだ。君は一族の宿命を言い訳に、自らの臆病さを隠すつもりか? ロンタギュー家のロミロよ!
[player] ……ん? あの役者、演技は置いといて、良く声を張れてるな。
[-] 噂をすれば影、マントをまとったいい声の男が登場した。その顔はすっぽりとフードに覆われていて、全身から謎めいたオーラを放っていた。
[-] 私は周囲を見回した。思った通り、さっきまでうつむいてスマホをいじっていた観客達も、顔を上げて興味津々で舞台を見ている。
[ロミロ(俳優)] え……君、誰?
[???] 僕が誰かなんて重要じゃないだろう。大事なのは選ぶことだ! ロミロよ、君は取るに足らない一族の誇りに縛られるのか? それとも勇者のように、愛する人を遠く連れ出すのか?
[ジュリリ(女優)] なにこれ。急に新しい役が追加されたの?
[ロミロ(俳優)] さぁ……
[ロミロ(俳優)] もういい、ふざけるのもいい加減に……うわっ!
[-] 謎の男を捕まえようと手を伸ばした俳優が足を滑らせて転んでしまい、その勢いで謎の男のマントまで引き剥がしてしまった。
[-] 俳優が体を起こすと、バーテンダーの格好をした男が彼を見下ろしていた。
[player] えっ……えぇ~!?
[観客A] ん? この作品の時代に、あんな服あったっけ?
[観客B] はぁ、いちいち騒ぐなよ。どうせ盛り上げる方法が見つからないから、雑にタイムスリップ要素でもぶち込んだんだろ。
[-] 観客達は、衣裳からオーラまで全てがこの舞台から浮きまくっている男についてひそひそと議論を交わし、挙句の果てにはカメラのシャッター音まで聞こえてきた。恐らく、この騒ぎは既にCatChatにアップされているだろう。
[-] しかし、騒ぎを引き起こした当の本人はどこ吹く風で、ワイングラスを悠々と磨いていた。
[player] いくら仕事熱心なバーテンダーでも、肌身離さずワイングラスを持ち歩くわけないだろ……いや突っ込むべきところはそこじゃなくて!!
[-] なんで四宮夏生が舞台の上に!?
[ロミロ(俳優)] き……君は一体誰なんだ?
[四宮夏生] 僕はただの通りすがりのバーテンダー。滅びゆく恋を救うためにやって来た!
[ロミロ(俳優)] 何言ってるんだ、これ以上舞台を荒らさないでくれ! ほら、下りろって!
[四宮夏生] 舞台に立っていいのは、この物語に登場する奴だけだ!
[player] 突然乱入してきたのはお前の方だろ……
[ロミロ(俳優)] いきなり飛び込んできた部外者が何を言ってるんだ?
[player] 確かに僕はたまたま迷い込んだバーテンダー……しかし、僕はこれから訪れる悲劇を知っている。すなわち、僕が入り込み登場したことこそが、この物語におけるデウス・エクス・マキナなんだ!
[player] お芝居の妨害行為をしてるのに、何でそんなに堂々としてるんだ……
[ロミロ(俳優)] それっぽく言えばごまかせると思うなよ! 君が舞台に上がったこと自体が滅茶苦茶な行為なんだぞ!?
[player] 滅茶苦茶かどうかは、舞台の前にいる賢明な方々に判断してもらおうじゃないか。問おう! 豪華で見栄えの良い衣裳に身を包んでいるくせに、生ける屍のように覇気のない台詞を吐くだけで、自分の未来を変えようなんて微塵も考えたことがない……
[player] そんなつまらぬ存在に、果たして舞台に立つ資格はあるだろうか!?
[全員] いや、ない!
[全員] そうだー! そいつらを舞台から下ろせー!
[-] 四宮くんがこちらに向かって両手を広げてみせると、観客達は彼の考えに同調して次々とブーイングを送り始めた。
[ジュリリ(女優)] だ、だったらどうしろって言うの? 台本に従わずに演技しろって?
[四宮夏生] それの何がいけないんだ! 人生という台本は自分で書くもの。未だにそんな無意味な問題で悩んでいるということこそ、君達がまだこの舞台に入り込めていない何よりの証拠だ!
[player] 舞台に入り込むことは確かに大事だけど……
[ロミロ(俳優)] 全てアドリブで演技しろ、なんて、簡単に言ってくれるなよ……
[-] ……ロミロ、君はいい役者ではないかもしれないが、代弁者としては多分合格だ。
[観客A] 演技を続けないのか? 主演の二人、大丈夫かよ。
[観客B] 別にいいよ、どうせこのバーテンの兄ちゃんの言うことほど面白くないし。
[ロミロ(俳優)] うぅ……
[-] 四宮くんの、よくわからないけど何かすごそうな言葉に少し心が躍ったけど、間もなく警備員が来て連行されるだろうな……等と考えていたら、四宮冬実が大慌てで舞台袖から飛び出してきた。
[player] まさか冬実ちゃんまで飛び入り……!?
[四宮冬実] お兄、やり過ぎ! 急に黙っていなくなったと思ったら、こんな所で騒ぎを起こすなんて。
[四宮冬実] 本当にすみません! うちの兄がご迷惑をおかけしました! すぐ連れて行きますので!
[四宮夏生] 待て、我が妹よ! 今大事な所なんだ。使命を果たしてから身を引いても遅くはないだろう!
[四宮冬実] バカなこと言わないで、グズグズしてるうちに警備員さんが来ちゃったら大変でしょ!
[ロミロ(俳優)] 待ってくれ。散々御託を並べておいて、このまま立ち去る気か?
[四宮冬実] え? あたし達に舞台からいなくなってほしいって一番願ってるのは、あなた達じゃないの!?
[player] そうだそうだ、それに公演を邪魔された責任を取らせるにしても、この人に出来ることは無いよ。
[ジュリリ(女優)] じゃあ……この件はこれで終わりにしましょ。公演はやり直せばいいんだし。
[ロミロ(俳優)] そうはいかない! ジュリリ、彼の話を聞いてなかったのか? 彼は僕達が縋るべき藁であり、僕達の運命を変えるチャンスなんだよ!
[ジュリリ(女優)] え?
[player] ……は?
[ロミロ(俳優)] 初めて会う友人よ。君の言う通り、僕は、繰り返される避けようのない運命、度重なる失望の中で、向上心を捨てた操り人形になっていたのだろう。
[ロミロ(俳優)] 正直に言うと、僕は君に嫉妬してる。たまたま乱入してきただけなのに、観客の視線を釘付けにしたからな。だから友よ、そう慌てて立ち去らないでくれ! この舞台には、まだ君が必要なんだ!
[ジュリリ(女優)] ……私からもお願いするわ! 名も知らぬバーテンさん。言葉通り、私とロミロに違う未来をもたらして。
[四宮冬実] み、皆さん……お兄にこのまま演技を続けさせるつもりですか……?
[四宮夏生] フハハ! いいだろう! 君達の心が決まったのなら善は急げだ。運命の方舟に乗り、愛憎渦巻く旅の終着点へと向かおう!
[四宮冬実] ……わかりました。じゃあお兄、頑張ってやり切ってねー。
[四宮夏生] どこへ行く? 我が妹よ。舞台に上った人間は、幕が下りて初めてその場を去れるのだ。既に君の席は用意してあるぞ、この運命の方舟にな。
[四宮冬実] えぇっ!? あ、あたしはただの通行人だって! そういうのは皆さんでやってよ!
[-] 四宮くんは暴れる妹をものともせず、ほとんど引っ張るようにして舞台中央へと連れて行き、会場全体を支配するかのような勢いを保ったまま演技を続けた。
[player] あははっ、やっぱり冬実ちゃんはまだまだ若いなぁ。
[四宮冬実] た、助けて~……あたしの人生、社会的な死を迎えたりしないよね……
[-] 舞台のストーリーは迷走した。……正確に言えば、四宮くんが導くストーリーが混沌の極みと化しているのだが。
[-] しかし、役者達の演技に情熱が戻り、観客達もスマホをしまって真面目に劇を観始めた。さっきまで寝言を呟いていた、私の隣に座っている人すらも、ちゃんと座り直していた。
[-] 出演者も観客も、みんなが等しく熱狂したのだ。
[-] 私は、ロミロとジュリリがバーテンダーの兄とその妹に導かれ、一族の追跡を振り切り、死の山脈を越え、星空の彼方に理想の家庭を築いた……という筋書きの不条理劇を楽しんだ。そして、「ここはどこ? 私は誰? 一体何を見せられたんだ?」という謎を抱えながら、スタンプを押してもらうために出口へと向かった。
[スタッフ] 問題です、ロミロとジュリリは最後どんな結末を迎えたでしょう? 簡単な問題ですよね、実はほとんどサービス問題なんです。
[-] 問題を出したスタッフはさっきのあのふっくらとしたスタッフだったが、今はそこまで親しみを感じられなかった。
[player] ほ、星空の彼方で理想の家庭を築いた?
[スタッフ] ブーッ。では、次の問題です。ロミロがジュリリを追いかけてる時、親切な人の助けを得られたでしょうか?
[player] 親切かどうかはわからないけど、バーテンダーの兄とその妹の助けがありました。間違いありません。
[スタッフ] バ、バーテンダー? お客様、三問正解はもう無理ということで、スタンプは押せません。
[-] 私が悪いの!? いやどう考えても悪くないよな、じゃあ私は誰を責めたらいいんだー!
[player] スタンプを押してもらえる別の方法はありませんか……?
[スタッフ] あります。次の公演が十分後に始まるので、見終えたらまた僕のところに来て問題に答えてください。
[player] なるほど、ありがとうございます。
[-] 私は遊園地のナビアプリを開いた。はぁ、まだまだどのアトラクションも待ち時間が長いなぁ。
[player] これは、次の公演を見ろっていう神様の思し召しだな……ん? あれは、ハンナ?
[-] 劇場の入口で、見慣れた人影が、受付スタッフと何か言い争っているのが見えた。
[player] ハンナ、どうしたの?
[ハンナ] あんれ! PLAYER、いいどごさ来た!
[ハンナ] こん人わぁばいじめるんだ! 中さへでけね!
[受付] はぁ……だから何度も言っているでしょう? 関係者入口はこっちじゃないって!
[-] 入口の電光掲示板を見ると、次の公演の欄に『ゲーム・オブ・ライオンズスローンズ』と書かれていた。
[player] ……なるほど、大体の状況はわかったよ。ただの誤解だから、二人とも落ち着いて。
[-] 私は受付スタッフに状況を説明し、内部スタッフにもハンナが動物役の役者ではないただの客であることを証明してもらって、ようやく一緒に劇場に入れた。
[ハンナ] 助かった~、おめいねばどうすべど思っとったじゃ。
[player] どういたしまして。
[player] 『ロイヤルシアター観賞ガイド』によると、今回の演目は外国語で上演されるんだって。ハンナ、わからないところがあったら私が翻訳するよ。
[ハンナ] おぉ、やっぱしPLAYERは優すな! んだばって、聞き取れねしてもいいはんで。舞台とば楽しむんだば、一番大事だのは心で物語を感じることだって、オノデラさんも喋ってらね。
[player] そっか。確かにセリフがわからなくても、役者の表情や動きを見てるだけである程度ストーリーが推測出来るよね。
[-] 『ゲーム・オブ・ライオンズスローンズ』は、ライオンの王子が仲間の力を借りて、父親の王位を簒奪した叔父に復讐する……という物語だ。幕が上がるなり、ハンナが驚きの声を上げた。
[ハンナ] わっ! おべでら声聞けだ!
[player] 親しみのある声? それって、BGMで聞こえて来た動物の鳴き声のこと?
[ハンナ] んだ! わんどの一族はこった風に「ガウガウ」って喋ってらよ!
[player] あはは、じゃあ故郷に帰ったような気分になるんだ。
[ハンナ] だばって、たげ変な話しちゃあ。さきただば「まだ雨降ってら」って喋ってらのに、今度だば「いい天気だ」って喋ってら……。
[player] えっと……こういうのは雰囲気作りのためにスタッフが適当に録った鳴き声だろうだから、深く考えない方がいいよ。
[-] そうアドバイスしたものの、このような鳴き声は、ハンナが観劇する上で結構な障害になったようだ。
[舞台(ナレーション)] (外国語)若きライオンは、それが罠であるとも知らず、崖っぷちに立って左右を見回した。彼は窮地に追いやられて初めて、自分たちの「叔父と甥」という間柄の仲の良さがまやかしに過ぎなかったことを思い知ったのだ……
[傷のライオン] (外国語)可愛い甥よ、お前は父親同様のバカだな。死に場所まで同じ場所を選ぶとは!
[ライオンの王子] (外国語)古の神々よ、なぜ僕とこんな卑怯者を、血族にしたのですか!?
[ハンナ] いぐねぇ奴だなぁ……隠れでとっといだ肉ばがっぱど食ったはんでって、なして崖がら落どさねばまねんだっけ!?
[-] 見ているこちらまで歯がみしてしまうような裏切りが描かれるシーンなのに、ハンナはBGMとして使われている動物の鳴き声を聞き、ライオンの王子の食い意地が張っていたせいで叔父を怒らせ、崖から突き落とされる罰を受けるシーンだと理解したようだ。
[-] また、ある時には……
[舞台(ナレーション)] (外国語)ハイエナ族に見るも無残に荒らされた森を目にし、ライオンの王子は怒りを抑えきれなかった。一方王子の敵たる傷を持つ叔父ライオンは、かつて払ったはずの後顧の憂いが実は払われていなかったことに驚愕した……
[傷のライオン] (外国語)グオォ―! クソッ、お、お前、生きてたのか!?
[ライオンの王子] (外国語)僕があなたの偽りの仮面を剥がしてあげます、叔父さん……いや! お前はそう呼ばれる資格などない!
[player] 最高のBGMだね、特に動物の咆哮は、まさにライオン同士の戦いって感じで臨場感に溢れてるよ。
[ハンナ] わいは~ あらんど、ままさすべって喋ってらんでねんだが? なして戦い始まってらの?
[player] ……説明するね。今やってるシーンは、ライオンの王子が故郷に戻ってきて、叔父さんに復讐をするっていうシーンだよ。
[ハンナ] へぇ~、んだんだ。
[player] ついでに聞きたいんだけど、今流れてた声はどういう意味なの?
[ハンナ] 「ばげまま食ったが? えさ寄ってかねが?」だべさ。
[player] なるほどね、わかったよ。
[-] なるほどわからん……よくある日常会話なのに、あそこまで凶暴で恐ろしい咆哮になる必要ある!?
一時間後
[ハンナ] まんずめやぐだったじゃ、PLAYER。おめいねがったら、わはかちゃくちゃねがったじゃ。やっぱし、心だけで芝居とば感じるの、難しな……
[ハンナ] ……あ、美樹てんちょから電話だ、探されでら。
[player] ちょっと待って、スタンプがもらえるクイズには参加しないの?
[ハンナ] やっぱし、てんちょのとごのおすごとの方が大事だはんで、まだ今度いいとぎ参加するじゃ。
[ハンナ] へばね、PLAYER。
[player] うん、また。
[player] あなたでしたか。
[スタッフ] 僕です。
[スタッフ] あなたでしたか。
[player] 私です。……それにしてもこれだけお客さんがいるのに、よく私のことを覚えてましたね。
[スタッフ] このクイズに参加してるのはあなただけだからですからね。
[-] さっきのあの親しげには見えなくなったふっくらとしたスタッフと向き合い、私は深呼吸をした。
[player] 準備が出来ました。
[スタッフ] では……第一問、以下の三つの鳴き声から、ライオンが怒っている時のものを選んでください。
[-] 「グオォー!」「グオォー!」「グオォー!」
[player] いや、今のって違いあった? それに、人間の私がライオンの言葉を聞き分けられるわけないじゃないですか!
[スタッフ] どうやら答えられないようですね。では第二問、次のうち、ウサギがライオンに会った時の鳴き声はどれでしょう?
[-] 「ピョンピョンッ!」「ビョンビョン!」「ブッ」
[player] ま、待って。 ウサギって鳴くの? そもそもウサギって鳴く生き物なの!?
[スタッフ] どうやらこの問題も答えられないようですね? では第三問……
[player] その前に教えてほしいんですが、まさか全部こういう問題なんですか?
[スタッフ] その通りです!
[-] しまったなぁ、こうなるってわかってたら、何としてもハンナを引き止めて一緒に解いてもらったのに!
[player] もう諦めて聞いちゃいますけど、次の上演はいつですか?
[スタッフ] 十五分後です。
[-] 三回目の公演の前に、私は焦りを鎮めるために冷たい飲み物を買った。
[-] 後に、それが完全に誤った選択だったと証明されることになったのだが……
[player] 寒い……
[-] 三本目の公演の演目は『氷の精サララ』。氷に閉ざされたとある白銀の王国で、氷を操る力を持つ姫が、うっかり過ちを犯したことで民衆から嫌われ、失意のうちに高い山の上にある氷の城へと逃げ込む。
[-] 一方、姫の妹は反対を押し切って命懸けで雪山を越え、最後には姉の心の氷を融かす……という物語だ。
[-] より臨場感を出すために、劇場内は冷房がガンガンに効いていた。私はスタッフに手渡されたブランケットを被り、椅子の上で縮こまりながら公演を観終えた。先ほど買った冷たい飲み物の中の氷は、劇場を出る時も元の形を保っていた。
[player] しかし今回は飛び入りもなく、始終解説する必要もなく、役者もかなり熱が入っていて、観客に催眠術をかけることもなく丁寧に芝居をしていた。……これだけまともな公演を見られたのに、逆にちょっと落ち着かなかった。
[player] ちょっとお腹が空いたなぁ、そろそろ昼飯時だし、スタンプを押してもらったら何か食べようかな。
[???] あ、やっぱりPLAYERさんでしたか。
[player] イブさん? 奇遇ですね、まさかイブさんもここに来てたなんて。
[イブ・クリス] 私、あなたの二列後ろに座ってたんですよ。ここに入った時に見覚えのある後ろ姿だなと思ったのですが、もうすぐ公演が始まる所だったので、他の方の邪魔になるかと思って挨拶は控えました。
[player] 今回の公演で、イブさんのホームシックも少し和らいだんじゃないですか? 確か、北国も一年を通して大雪が降る所でしたよね。
[イブ・クリス] そういえば、このお芝居に出てきた風習やセットは、どこか懐かしい感じがしました。もしかして、劇団員の中に北国の文化に詳しい方がいるのでしょうか?
[player] なになに……『ロイヤルシアター観賞ガイド』によると、台本を執筆する際、一飜市のとある教会から風習や舞台美術の面で助言を受けたそうです。
[イブ・クリス] そうなのですか? 私の考えすぎかと思っていましたが……やっぱり彼女だったんですね……
[-] しまった、イブさんと彼女……北原リリィさんが未だに和解出来ていないっぽいことを忘れてた。イブさんの心の傷に触れちゃったみたいだ。
[player] えっと……そろそろお昼時ですし、良かったら一緒に何か食べませんか?
[イブ・クリス] ふふ、そう心配なさらず。私なら大丈夫ですから。
[player] 何も言ってませんけど……。
[イブ・クリス] 私も嘘をつくのがあまり得意ではないですが、PLAYERさんは私より隠し事が苦手なようですね。全部、顔に書いてありますよ。
[イブ・クリス] ご安心を。さっきはただ……リリィも、自分の氷の城に来て、心の氷を融かしてくれる人を待っているのかな……と考えていただけです。
[player] ……どうでしょうね、あのシスターさんの考えていることはよくわかりませんから。
[player] ところで、氷を融かすには炎が必要ですよね。私、剣士を一人知ってるんですけど、ちょうどその人の炎は不死鳥のように暗闇を浄化したり、そばにいる人を温めたり出来るんですよ。
[イブ・クリス] ……ふふっ、あなたにそう言われると、こちらまで照れちゃいますね……うん、戻ったら精一杯試してみます! もとい、今はリリィともう一度話し合いたくて待ちきれません。
[player] でもその前に、この遊園地の最難関をクリアしなきゃいけませんよね!
[イブ・クリス] え?
[スタッフ] 来ましたね。
[player] 来ましたとも。
[スタッフ] お客様は約束を守る方なんですね。
[player] ……どうしてわかるんですか?
[スタッフ] ここにいらしたからです。
[-] スタッフは、私の隣にいるイブさんをちらりと見てから、私に向かって頷いた。
[スタッフ] 援軍まで連れて来たんですね。
[player] ふん、今回は細部まで完璧に研究しましたので、もう負けませんよ。さあ来い!
[-] なんと、今回の問題は北原リリィ本人による出題で、北国の風習に関する問題だったため、私の知識の盲点をばっちり突かれてしまった。
[-] 私は、隣ですらすらと問題に答えるイブを感激の目で見つめながら、神が用意した偶然の出会いに感謝の涙を流した。
[スタッフ] お二人とも、クリアおめでとうございます。パンフレットにスタンプを押しました。園内のコンセプトファミリーレストラン「にゃんだふる」のクーポン券を二枚差し上げます。これがあれば、無料でお食事のサービスを受けられますよ。
[player] ふぅ……やっとだ、これで四本目を見ずに済む。またね「ロイヤルシアター」、二度と来ないけど!
[イブ・クリス] PLAYERさん、この後、何かご予定はありますか?
[player] さっき言いませんでしたっけ? ご飯を食べに行きます。
[イブ・クリス] あれは、話題を逸らすための口実じゃなかったんですか?
[player] 半分口実で、半分本心でした。ほら、またお腹が鳴ったでしょ。
[イブ・クリス] ふふ、本当ですね。
[-] 手にしたクーポン券を見て、私とイブさんは顔を見合わせた。使わなければ損だ。ファミレス「にゃんだふる」に行ってお腹を満たそう。
[-] 「にゃんだふる」
[player] うっ……臭豆腐味の、大福、だって……!?
[イブ・クリス] わぁ……ここにもあるんですね。
[player] これってまさか……イブさんの大好物だという噂の、あの臭豆腐味の大福……!?
[イブ・クリス] フフ、そうみたいです。このお店は、各地から変わった味の料理を集めているそうです。メニューには、アイデアを提供した方々のお名前が書かれていますよ。
[-] イブさんの話を受け、改めてメニューを見てみると、案の定「ブラックハート大福」の脇に「開発協力:一飜市朝葉高校スイーツ部」と書かれていた。
[-] 私は額の汗を拭い、メニューに知り合いの名前が書かれていないか真剣に探し始めた。具体的には、「二階堂美樹」とか「八木唯」とか……
[イブ・クリス] もう少し何か頼んでみましょうか……ドリアンアイランドバーガーも美味しそうですし、ハッピースターフィッシュソーダも飲んでみたいです。いっそ、全メニューを一つずつ注文してみましょうか。
[player] 頼み過ぎはダメですよ、限度を考えないと。それに、ここに書かれたメニューが全部一緒に出て来たら、どんな化学反応を起こすかわかりませんし……
[-] 料理が続々と運ばれてきたので、それぞれ一口ずつ食べてみた。良かった、なかなか変わった味だけど、食べられないほどではない。しかし私の懐の大きさを考慮すると、誰もが楽しめるだろう……とは言えないな。
[player] 遊園地が正式オープンした後も、何とか営業が続けばいいけど……。