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止めないで、彼女に乗っかろう

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千織のような尊大なお嬢様が進んで私程度の奴に媚びを売るなんて、よっぽど勝つために必死なんだなあ。こんな時は全力で乗っからないとね!
心優しい私は千織の演技に合わせ、騙されたフリをして指し示している方を見た。
[player]なになに?
チーン。思った通り、千織はこの隙に乗じてベルを鳴らした。
[player]えー、引っ掛け~?
[三上千織]うふふ! 嘘も戦術のうちよ!
[player]よーし、今度は集中するぞー!
そう言ったものの、二度あることは三度あるものだ。その後も、私は千織の騙し討ちを止められなかった。
[三上千織]あ、そうだ。この前の子猫のこと、覚えてる? あの後、璃雨にボランティアに連絡させて、引き取ってもらったんだけど……シロちゃん、クロちゃん、茶トラちゃんがいたわよね。あと二匹はどんな色と柄だったかしら?
[player]え? えーっと……
チーン。またしても千織に隙を突かれてしまった。
[三上千織]あー、お腹空いた。何か食べたいものはあるかしら? 今日は千織が何でもご馳走してあげるわよ!
[player]何でもいいのか~……ごくっ。
チーン。また隙を突かれた。
チーン、チーン、チチチチーン。甘い言葉に猫なで声、バリエーションに富んだキュートなトラップの裏には、ベルを鳴らされっぱなしになるという状況と、じわじわ枚数を減らしていく私のカードという残酷な現実が潜んでいたのだった……
最後のベルが鳴り、私のカードが全て取られてしまった。完敗だ……。
恐れていた通りに何も無くなったテーブルの上を眺めながら、にっちもさっちもいかなくなった私は両手を挙げて降参した。
[player]はいはい、私の負け。千織の策略はすごいなぁ。今回のトレーニング、受けるしかないみたいだね。
ところが、千織は思っていたほど喜ばなかった。それどころか、千織が手に入れたカードの山を私の前へと押しやってくる。
[三上千織]この対決は無効よ。
[player]え?
[三上千織]千織だってバカじゃないもん。今の対決、PLAYERはずっと、わざとベルを譲ってた。そうでしょ?
虚を突かれ、私はやや気まずい気分で顔を掻いた。
[player]えーと……全部じゃないよ。大半は千織の可愛さに気を取られたせいだし。
[三上千織]……ふん、口だけは上手いんだから。まあいいわ、明日は来なくていいわよ。トレーニングも中止。
[player]え? どうして?
[三上千織]……バカ。あんたは千織が傷つかないようにって、わざと譲ってくれたんでしょ。だったら、真っ当な心の持ち主たる千織様もあんたの立場に立って考えてあげるのが当然でしょ!
[三上千織]「何をもって勝利とするか」がこんなに違うんじゃ、千織のやり方で勝ってもあんたは嬉しくないでしょ。
[player]うーん……つまり千織は私を思いやってくれているって考えていいの?
[三上千織]……か、勘違いしないでよね! 二人でやるゲームなんだから、二人で勝たなきゃ勝ったうちに入らないでしょってこと! そういう意味だから!
[player]そっか~。
私はニコニコと同意した。だって、千織が頬を赤らめて照れてるところを拝めてラッキーだったから。彼女の言い訳が少々苦しいものに聞こえても、当然許すというものだ。
[三上千織]だから……二人で勝つために、明日の再戦は一旦中止して、これから真の意味でのチームワークを鍛えるトレーニングをすればいいのよ。
[player]……真の意味でのチームワーク……?
私がその意味を飲み込めていないのを察して、千織はスッと立ち上がり、本棚の何かを押した。
次の瞬間、ウィーンという音とともに機械式スライドレールが動き、一見ごく普通の造り付け本棚が左右に開いて向こう側へと押し込まれていった。すると、なんとその先に隠し部屋が現れた。
圧倒されつつ中を見ると、隠し部屋には目を見張るほど多種多様なボードゲームのボックスや、ボードを含む様々なアイテムが並んでいる。ボードゲームプレイヤーにとっては天国と言えるほどのコレクションルームだ!
[三上千織]驚いた? 千織はそんじょそこらのプレイヤーとは違うの。千織と協力プレイをしたければ、まず千織と同じようにたくさんのボードゲームをやり込むことね。それで、早く千織のレベルまで追い付きなさい。
[player]!
千織は私が思っていたような、軽い思いつきでボードゲームカフェに行く程度の平凡なプレイヤーじゃなくて、プロレベルのボードゲーマーだったのか……。
このお嬢様は、いつも思いもよらないことをもたらしてくれる。
こうして、私と千織は、「チームワークを深めるために、色々なボードゲームを一緒にたくさん遊ぶ」という約束をした。
コレクションルームをじっくり見渡し、ふと気になって千織に尋ねてみた。
[player]そういえば、千織はいつからボードゲームで遊ぶようになったの?
[三上千織]うんと小さい頃からよ。でも、麻雀を打つようになってからは、他のボードゲームはほとんど遊ばなくなったわね。
[player]どうしてボードゲームが好きなの?
[三上千織]ルールを利用して相手を痛めつけられるのよ、面白いに決まってるでしょ? そんなこともわからないの?
[player]え?
[三上千織]まあいいわ、あんたもいつかこの楽しみを理解出来る日が来るでしょ。これからチームワークを築く方法はまだた~くさんあるんだから。
……お嬢様の大変愛らしい笑顔を見てると、期待と恐れが同時に沸き上がってきた。