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姫川響のお化け屋敷Ch.

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夏の思い出 姫川響のお化け屋敷Ch. 姫川響のお化け屋敷Ch. [姫川響] お前ら、まったせったなー! 「姫川響のチャンネル」特別企画、「お化け屋敷『幽霊宿舎』体験生配信」の始まりだー!
[姫川響] 前のグループが時間かかってるっぽくて、僕達の出発はもう少し後になるんだけど……ここで新しい友達を二人紹介しとくわ!
[姫川響] まずは、手に包帯巻いちゃってるミステリアスガール! 全身から漂う不穏なオーラ、お化け屋敷にぴったりだろ? 綾子ちゃん、挨拶して。
[森川綾子] ……
[姫川響] あちゃー、照れなくていいよ。ほら、もうちょい近づいて……大丈夫、リスナーは君をいじめたりしないからさ。
[森川綾子] そ、そういうつもりじゃなかったの……えっと、みなさん、こんにちはなの……
[姫川響] 挨拶するだけで投げ銭!? まったく、陰キャに優しい良い時代になったもんだよ……それから、こっちがPLAYER。
[player] ……
[森川綾子] 何ボサッとしてんの、はよ挨拶!
[player] ……え、それだけ? なんで私の紹介はそんなに適当なの……?
[player] まぁいいや、初めまして、PLAYERです。
[-] 何の接点もなさそうな私達三人の生配信グループが結成された経緯を説明するには、今日の朝にまで遡る必要がある……
早朝
[-] 「ドンドンドン……ドンドンドン……」絶え間ないノック音が、私を夢から呼び覚ました。
[player] 誰だよ……朝っぱらから人の安眠を妨げるなんて。
[player] ってあれ、森川さん?
[森川綾子] 私、お邪魔だったの?
[player] や、そうでもないよ。もうそろそろ起きる時間だったし。どうしたの?
[森川綾子] 花子が、島で新しい友達が出来たから、一緒に遊びたいって言ってるの……だから……
[player] だから……?
[森川綾子] だから……PLAYERも一緒に遊ばない?
[player] いいよ。どこに行くの?
[森川綾子] お化け屋敷なの。
[player] ……いいよ。
現在
[-] まさか、お化け屋敷の入口で姫川響とばったり遭って、「不運にも」彼女の「お化け屋敷『幽霊宿舎』体験生配信」のメンバーに選ばれてしまうなんて、思いもしなかった。
[player] 私はいいけど、せめて森川さんの意思を確認してよ。
[森川綾子] あ、私は……いいの……PLAYERもいてくれるなら。
[森川綾子] それに、零子達も、知らない人がいた方が……いいって言ってるの。
[player] え?
[player] みんな……PLAYERとは長い付き合いだから、もうびっくりさせられないって言ってるの。だから……
[player] あの子達、どうやって私を驚かせるか毎日考えてるんだ?
[森川綾子] うん……私は止めたんだけど……君達が楽しそうだから……
[player] そっか、だったら今日は他の人を驚かせてもらおう。
[player] そういえば、運営側に生配信の許可は取れたの? 配信するってことは、リスナーさん達にお化け屋敷のネタバレするってことだよね。そしたら、新鮮味が無くなっちゃうんじゃない?
[姫川響] 安心して、運営サイドとは話をつけてある。今回配信することでお化け屋敷の宣伝になるし、一般の人の意見も集められるから、正式オープンの前に改良出来てウィンウィンってわけ。
[森川綾子] それに、新鮮味なら……心配いらないの。
[森川綾子] さっき、あそこにいるおじさまから話を聞いたの。みんな、ここに新しい遊園地が出来たって聞いて、各地から駆けつけてきてるの……毎日、新しい顔ぶれになるの……
[姫川響] あそこにいる、おじさま!? あー、なるほどねー。
[姫川響] わざわざ電波発言とは、綾子ちゃんは動画映えってやつをよくわかってんね! ……それにしても前のグループ、おっそいなー。リスナーも暇すぎてコメ欄で雑談し始めちゃってんじゃん。
[アナウンス] 次のお客様、心霊の旅が間もなく始まります。ご準備をお願い致します。
[姫川響] お! よぉーし、一流のプレイヤーの僕の実力を見せる時が来たな! お化け屋敷くらい、ノーコンクリア余裕よ。
[player] 言っとくけど、コメント欄にいる人の大多数は開始十分で心折れて、リタイアしますって書類にサインする方に賭けてるみたいだよ。
[姫川響] アーアーキコエナーイ。うちのリスナー、いっつも笑える方に賭けて僕をコケにしようとするけど、最後にはみんな「クッソ、賭けるほう間違えた」ってコメントするんだよねー。さ、レッツゴー!
[-] スマホや明かりをつけられる物を全てフロントに預けたが、姫川響のみ配信用のスマホを持った。私達はスタッフに誘導されながら、真っ暗なトンネルを通り抜け、錆びた鉄のドアをくぐった。
[スタッフ] 今回の探索エリアは全部で三階まであります。全てのエリアを調べて手がかりを集め、謎を解き明かしここから脱出してください。
[スタッフ] では、幸運を祈ります……フフ……
[-] 不気味な笑みを浮かべたスタッフは、ルール説明を終えるとすぐその場から立ち去った。古びたウォールランプの微かな明かりを頼りに見回すと、かろうじてこの先に宿舎棟があると確認出来た。
[-] しとしとという雨音と雷の音が響き、時折ひんやりとした風が足元を吹き抜ける。これはただの演出で、本当に雨が降っている訳ではない。わかっているつもりでも、冷たく湿った空気が毛穴にまで入り込んでくるようで、まるでジメジメとした梅雨の時期が到来したかのようだ。
[player] なかなかいいムードだね。けどさ、こんなに広いお化け屋敷なのに、一度に一組しか入れないものなのかな?
[姫川響] 人が少なくていいじゃん。雑魚は僕のクリアタイムの邪魔にしかならないからね。
[姫川響] ……へ? 明かりが消えた!?
[-] 宿舎棟の廊下へと続く階段を上っていると、不意にガラスの割れる音が聞こえ、背後にあったウォールランプの光が呼応して消えた。真っ暗闇の中、配信用のスマホだけが弱々しい光を放っている。
[姫川響] なぁ、何か、音が聞こえない?
[player] それって……「ギギギ」って音?
[姫川響] それ。もしかして……さっきの入口のドアが閉まった?
[player] 閉まったってことは、先に進むしかないってことだよね。そのスマホの画面をもう少し明るくして、周囲の様子を確かめよう。
[姫川響] ダメだよ、そんなことしたら電池の減りが早くなっちゃう。それに、お化け屋敷の中をこれ以上明るくしたら面白くないじゃん。
[アナウンス] 消灯時間です。皆さん立ち止まらず、すぐに寝室に戻ってお休みください……
[森川綾子] ……何か、声が聞こえなかった?
[player] 私も聞こえたような。これは……足音?
[???] こんな時間なのに……なぜ、まだ廊下でグズグズしてる奴がいる!!??{var:ShakeScene}
[-] 「バチバチ!」という電流が流れる音と、人の怒声が静寂を打ち破った。
[姫川響] なになになに~~!?
[-] 響が音を聞くなり逃げ出したので、私も森川さんの手を引いて後に続いた。後ろから金属で窓枠を叩く音が断続的に響き渡り、振り向かなくても何か恐ろしいものが後ろにいるとわかる。
[player] あ! 逃げ足はやっ! こら待て~!
[姫川響] なんで僕を追いかけて来るんだよ! 別んとこに引きつけとけよ!
[player] 一本道だろ!? そんなに速く走らないでってば! そのスマホの明かりだけが頼りなんだから!
[アナウンス] 皆さん、立ち止まらず、速やかに寝室にお戻りください。管理人の手を煩わせてはいけません……
[player] ……つまり、寝室に入れってこと?
[森川綾子] PLAYER……花子が、次に曲がって最初の部屋には鍵がかかってないって。
[player] それ本当!? 響! 右に曲がって最初の部屋を開けてみて!!
[姫川響] えっ!? ……あだっ! ってててぇ……おい、早く早く! この部屋、マジで鍵かかってないよ!
[森川綾子] 森川さんが言った寝室に逃げ込んでドアを閉めると、私達を追う足音も止まった。顔をしかめて鼻先を触っている姫川響を見て、私はティッシュを差し出した。
[player] 大丈夫? 何かにぶつかったみたいだけど、鼻血は出てない?
[姫川響] 急いで入ろうとするあまり、ドア開けるの忘れてぶつかっちゃった。痛いっちゃ痛いけど、鼻血は出てないっぽい。おいお前ら! 笑いたきゃ笑え、けど出来れば投げ銭で慰めてくれ!
[森川綾子] PLAYER、さっき私達を追ってきたのは、本物の人間だって貞子が言ってるの。
[player] 余計怖いよ! 人が一番怖いんだよ、最悪死ぬよ!!
[森川綾子] うん……でも……
[姫川響] お前ら、何話してんだ? リスナーから質問が来てんだけど。
[森川綾子] うん……何でもないの。ただ、この部屋の人達が、私達が入ってきたからちょっと狭いって言ってるの……
[森川綾子] 人が、多すぎるの。
[森川綾子] こんなこと言ったら、君達を怖がらせちゃうかもって心配してたの。けど、PLAYERが、人が一番怖いって言ってたから……言っても大丈夫だって思ったの。
[-] 森川さんは可愛らしい笑顔を見せた。かすかな明かりしかない部屋の中では、それは天使ではなく……死を宣告する魔女のようだった。
[-] 嬉しいことに部屋の照明がついて、響の真っ青な顔を照らしてくれた。
[姫川響] は……はは……綾子ちゃんがチャンネルを持ってなくてホント残念だな。君ならきっとオカルト系配信者の頂点に立てるよ。保証する。
[-] 少し休憩して緊張を緩めてから、寝室を調べ始めた。すると、謎を解く手がかりとなる日記を見つけた。
[player] 「管理人さんが、秘密のノートを廊下のゴミ箱に捨てちゃうなんて。あの人がいない時に回収しないと」……日記によると、あの真っ暗な廊下に戻って、手がかりを手に入れてこいってことかな? 誰が行く?
[姫川響] ここは公平にじゃんけんで決めよう。あぁ、綾子ちゃんはパスでいいよ。この部屋を見つけてくれたしね。
[player] じゃーん、けーん、ポイッ……はぁ、負けちゃった。
[森川綾子] PLAYERが、あまり行きたそうじゃないのは……怖いからなの? 安心してほしいの。花子が、外の人達は友好的だって言ってるの。
[player] まあ少しね。あのスタンガンはおどかすためのもので、怪我することはないってわかってても、あの音を聞くとやっぱり思わず逃げたくなるよ。
[-] 行きたくない理由はもう一つある。それは……
十分後
[姫川響] チッ、残念。暗過ぎて、お前が逃げる時の最高な顔をリスナーにちゃんと見せられなかったわ。もう一回行って来てくんない?
[player] よくそんなこと言えるね?
[-] これこそ、手がかりを取りに行きたくなかった最大の理由だ。この悪意丸出しの女に嘲笑われるだけでなく、下手したら生配信の笑いのタネにまでされてしまうから……。
[player] 手がかりは持ち帰ったよ。言っとくけど、次の探索は私は何もしないからね。
[player] わかったわかった、公平を期すために、一人一回割を食うとしよう。どれどれ、このヒントによると……あ、もう隠し通路を見つけちゃった。もうちょっと歯ごたえのある謎を出してくんない? こんなんじゃ眠くなっちゃうよ。
[-] 響は自慢しながら身をかがめて隠し通路に入り込んだが、途中で動きを止めた。短い静寂の後、通路の向こうからスタンガンの音が聞こえてきて、響は即座に引き返して体を起こすと、まだ心臓がバクバク言っていそうな表情で叫んだ。
[姫川響] イカれてんのか!? 向こうからスタンガンでビビらすなんて! 道徳教育どうなってんだよ!
[player] すぐに続かなくてよかった。スマホを持ってるのが私じゃなくて残念だよ。今の後ずさり、ぷぷっ……最高だったよ。ねぇ、もう一回行って来てくんない?
[姫川響] お前が行け。いくら僕が番組を盛り上げるためなら何でもするタイプの配信者って言っても、さすがにもうこりごりだ……ん? もうすぐ充電切れるな。充電終わったら枠変えて続き配信するから、ちょっと待っててー!
[-] 言い終わらないうちに、スマホの画面が真っ暗になった。多くのリスナーが、偉大なる配信者様に対し「戦略的配信終了だろこれ」と突っ込んでいることだろう。スマホがないのが残念だ、コメ欄爆撃出来ないし。
[姫川響] 外での配信って思ってた以上にバッテリー食うな~、バッテリー二個持って来といて良かった。このお化け屋敷、制限時間があるんだ。今のペースだと間に合わないから、急いで隠し通路を通るよ。
[-] そう言うと、響はスタスタと隠し通路を通った。もうスタンガンの音が聞こえてこないことに気付いた私は、あのスタンガン男はもういなくなったのだろうと考えて気が大きくなり、森川さんを連れて響の後に続いた。
[player] ヒエッ!?
[-] いなくなったんじゃなくて、平等に一人一回ずつ驚かせられるんかーい……
[-] 不可解なのは、配信を切ってからの響がそれまでのようにいちいち驚くこともなく、むしろ冷静に謎解きに集中していたことだ。時間を巻くために、手がかりを探すときも常に積極的に先陣を切り、脅かされるリスクを負った。
[player] どうしてまるで別人みたいに落ち着いちゃったの? もう脅かし役のやり口に慣れちゃった?
[姫川響] あーそれね、どうせ配信してないし言っちゃうけど、実は僕、最初から別にビビったりしてないんだよね。
[player] 本当? 嘘の反応には見えなかったし、普段からホラーゲーム苦手って言ってるのに?
[姫川響] んー、ここ真っ暗だから脅かし役の姿も良く見えないでしょ。それに、追いつかれた所でゲームオーバーにもならないしね。これが配信じゃなかったとしても、あの人達が僕らを追ってヘトヘトになってる様子を見たら、ちょっとはリアクションして顔を立ててあげなきゃ。
[姫川響] で、隠し通路のびっくりポイントの件はというと……僕、何も考えてない初心者とは違って、新しい場所に来た時は必ず地形を先に見ておくんだ。……ほら、お前の後ろに隠しドアがある。そろそろあの人達が来る時間のはずだ。これで信じた?
[player] わ……ほ、本当だ……
[player] わかった、信じるよ。でも、じゃあどうして、これまでわざと驚いたフリをしてたの? それもあんな迫真の演技で。
[姫川響] 稼ぎのため。盛り上がらない配信だと、リスナーが退屈してファンを辞めちゃう。それは、お化け屋敷をうろつくよりずっと怖いことさ。
[姫川響] 今月は他の案件も結構断ってるし、今回の生配信で一ヶ月分の収益を狙ってるんだ。下手すりゃ僕のお小遣いがピンチかもって思うとビビるよね。
[player] 実に現実的な理由だ……
[-] 響は配信のためにわざと怖がるリアクションをしていた。森川さんは、今日はずっと落ち着いていて、謎解き以外のほとんどの時間を、微笑みを浮かべて自分のぬいぐるみか、私や私の背後を見つめて過ごしている。つまり……
[姫川響] 本気で怖がってるのはお前だけだろうな。
[player] ありがとう、このことをリスナーの前で言わないでいてくれて。
[-] この部屋を出ると、一階の探索が完了したことになるはずだ。道を進むと、私達は分かれ道に辿り着いた。アナウンスによると、この後は二手にわかれて謎解きをしなければいけないようだ。
[姫川響] 僕は三階に行くから、二人は二階を頼むよ。終わったらここで集合な。あ、スマホの充電も終わったし、配信再開しなきゃ。まずは飴で喉を潤してっと。
[player] 気を付けて。演技に力を入れるあまり、どこかにぶつからないようにね。
[-] 響の手助けがなくなり、私と森川さんの謎解きのペースはかなり落ちてしまった。
[森川綾子] ……PLAYER、パスワードはノートに書いてあるの。生徒が持ち込んだ校則違反の物の数なの。
[player] おお、本当だ。没収された校則違反の物がちょうど六ページ分書かれてる、きっと六桁のパスワードに対応してるはずだ……やっぱり森川さんは賢いね。私だけだったら、ゲーム終了の時間になっても解けないままだっただろうな。
[森川綾子] 君の左側にいる男の子が教えてくれたの。その子が、たくさんのグループがそのやり方で謎を解いたって言ったの……
[-] 私の……左側。ゆっくりと首を動かしてそちらを見たが、何も見えなかった。しかし、思い込みかもしれないが、左側に本当に誰かが立っているような気がしてきた。
[player] 失敗した、響と君をペアにすべきだったかも。響の方がホラー系に強いし。
[-] その後も、「リボンをつけた女の子」や「病院服のおばさま」、「傘を差しているお兄さん」といった「友達」に協力してもらい、私達の謎解きのペースは大幅に上がった。
[-] 先程の分かれ道に戻ると、響が壁に寄りかかり、得意げに私達を見ていた。
[姫川響] PLAYER、おっそ~い!
[森川綾子] ごめんなの……新しい友達のみんなとのお喋りに夢中で、遅くなっちゃったの。
[姫川響] あ、新しい友達?
[player] あはははは……一流のプレイヤーなら、私達みたいな平凡プレイヤーにもうちょっと優しくしてよ。一応制限時間内に戻って来れたたんだから。
[姫川響] あはは、それは確かに。てかさー、ここの謎解きって割と簡単で、手こずるような問題にはめったに出くわさないし、脅かし役の人がわざわざヒントまでくれちゃうんだよね。僕に謎を作らせてくれって相談してみよっかなー。
[player] それだと、多分10%くらいしか出られなくなると思うよ。
[姫川響] お前さ、僕のこと舐めてんの? 0.1%くらいがいいとこっしょ。
[姫川響] それにしても、さっき僕にヒントをくれたスタッフは隠れ上手だったなー。お礼を言おうと思って振り向いたらもういなくなってたし……ん? メッセージが来てる……?
[姫川響] ……へ? な、何これ?
[player] どうしたの?
[姫川響] 友達が、配信を見てたら、僕の後ろに奇妙な人影が映ってたって……
[-] 姫川響がスマホを手渡してきた。友人から送られて来たという配信のスクリーンショットを見ると、姫川響の背後に人の手足のようなものが映り込んでおり、眼鏡をかけている人の顔がぼんやりと見える画像もいくつかあった。その人影は幽霊のように形が不安定で、どの画像でもはっきりとは見えなかった。
[姫川響] き、きっと僕にヒントをくれた人でしょ。……あー、この人本当に隠れ上手だなー! ね、そう思うっしょ?
[-] ……という訳で、手に入れた手がかりをまとめ、お化け屋敷からの脱出に成功した。フロントで預けた荷物を引き取ろうとした時、スタッフの話し声が聞こえた。
[スタッフA] 信じてくれよ、本当に聞いたんだって。さっき、お化け屋敷の三階で女の子が泣いてる声が聞こえたんだ。「怖いよぉ、暗いよぉ……」って。でも誰もいなかったんだ。
[真っ昼間から何言ってんだよ。よし、バカな話はもう終わり、次のお客さんがもうすぐ来るから。] 真っ昼間から何言ってんだよ。よし、バカな話はもう終わり、次のお客さんがもうすぐ来るから。
[姫川響] ……
[player] あのさ……
[姫川響] いやいやいや! 余計なこと言うな、白昼堂々そんなヤバいもんが出る訳ないじゃん。スタッフだってことにしよ!
[姫川響] うんうん、きっとそうだよ……何も起きてない、起きてないんだ……
[player] ……いや、別にあれが本物の幽霊だと言うつもりはなくて。ただ、あのスクリーンショットをもう一度見せて欲しいんだ。
[-] 改めてスクリーンショットを見ると、段々その眼鏡をかけた人物に見覚えがあるような気がしてきた。よくよく思い返してみると、以前、この子が部活のために宣伝動画を作った時も、このスクリーンショットと似たような不可解な感じになっていたな。
[player] 大体わかった。とりあえず、二人はどこかに座って待ってて。私はもう一回お化け屋敷に入ってくる。
[森川綾子] PLAYER、一つお願い事をしてもいい? 貞子がまだ中で新しい友達と遊んでて……
[森川綾子] あの子を見つけたら、一緒に連れて帰ってきてほしいの。ごめんなさい、あの子はいつもやんちゃなの……
[player] わかった、気にしておくね。もし見つけられなかったら、スタッフさんに頼んでおく。じゃあ、ちょっと行ってくるよ。
[player] ……あ、やっぱり君か。
[-] 私はお化け屋敷の中を見て回り、三階のとある部屋の片隅で、ブルブル震える二之宮花を見つけた。
[二之宮花] PLAYERさん!? わ、私を探しに来てくれたんですか?
[player] うん、さっきスタッフさんが「女の子の泣き声は聞こえるのに姿が見えない」って言ってたのを聞いて、花ちゃんなんじゃないかと思ったんだ。あと響が「謎解きしてたらヒントをくれたけど、誰もいなかった」って言ってたんだけど、それも君だよね?
[player] ところで、どうしてこんなところに一人でいるの? このお化け屋敷は三人以上のグループじゃないと入れないでしょ? 一緒に来た人は?
[二之宮花] 入ってすぐ、はぐれちゃって……ここは暗いし、建物も広いし、ずっと道に迷ってうろうろしてて……
[二之宮花] ようやく姫川さんに会えて、しかも私の声が彼女に届いたから、このままついて行けば出ていけると思ったのですが、謎解きを終えるとさっさと行ってしまって。頑張ってついて行こうとしたんですけど、途中で中の人に驚かされて……そのまま見失ってしまいました。
[二之宮花] うぅ……あ、あなたが探しに来てくれてよかったです。もう出られないかと思いました……
[player] 大丈夫だから、泣かないで。今度お化け屋敷に来る時は私と……ん? 手に持ってるそのぬいぐるみ……
[二之宮花] あ、これですか? これは、三階で謎解きをしてた時に見つけたものです。隣の部屋のテレビの上に置かれていたので、手がかりかと思ったのですが。
[-] ここは三階、私と森川さんが行ってないエリアだ。どうして森川さんの「貞子」がここに?
[二之宮花] PLAYERさん、急に黙って、どうしたんですか?
[player] い、いや、何でも。とりあえず外に出ようか。
[-] 森川さんがいつの間にか「貞子」を落としてしまったとか。だから「新しい友達と遊んでいて、まだ出てきてない」と言ったのだろう。
[-] うん、そういうことにしておこう。私と森川さんは三階に上がったことはなかったはずだけど、細かいことを延々気にするのはやめておこう……
[player] ぬいぐるみが自分で走り回るなんて、ありえないし……
[player] ……っ!? な、なんだ、ショートメールか。
[player] ぐるぐる考えていたところにスマホが震えて驚いた。
[-] 姫川響から届いた音声メッセージを再生すると、テンションブチ上げの声が聞こえてきた。
[姫川響] ちょっと聞いてくれよ! 今日の配信の切り抜きがもう上がってるんだけど、それがちょうど幽霊が出たところでさ! 再生数クッソ伸びてる! うひょ~! 今月の収益エッグいぞ~!
[二之宮花] ゆ、幽霊!? このお化け屋敷で出たんですか!?
[player] 落ち着いて、ちょっとした誤解だよ。でも今、響に説明するのは野暮ってもんだよな……
[-] しばらくスマホの画面を見つめて考え込んだが、「嬉しそうで何よりだよ……」と返信することしか出来なかった。