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麻雀

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「一飜市で四象戦の予選が月末に行われると発表されてから、各地の麻雀会館は大勢の人で賑わっています。今回の大会への注目度の高さが伺えますね……」
テレビから、途切れることなく現地の様子を伝えるリポーターの声が流れている。人は皆、なぜこうも集まって騒ぎたがるのか……三上千織にはまるで理解出来ない。そういった人混みを、彼女は常に遠ざけてきた。
しかし、この試合は結構面白そうだ。画面には、これまでの四象戦予選の様子が映し出されている。
千織のために紅茶を淹れつつ、面白そうにテレビを見ている九条璃雨の様子も気になった。
「璃雨、この四象戦っていったい何なの?」
何度か見つめても反応を返さない璃雨に痺れを切らし、千織はついにゲーム機を手放して尋ねた。
「四象戦というのは、麻雀というゲームの大会です」
「それ、楽しいの?」
「そうですね……わたくしも実際に遊んだことはありません」
「じゃあ、どうしてそんなに興味深々なの?」
「それは……」璃雨は千織を見て、真剣な表情を浮かべた。「麻雀は一飜市の伝統的なマインドスポーツで、様々な社交の場でもごく当たり前に口にされる話題だとか。最高のメイドとしては、ぜひとも知識を付けておきたいのです。そうすれば、千織様が恥をかく心配もないかと思いまして」
「あ、そ、そうよね……えっと……ち、千織もそう思ってたとこなの」わずかに声が上擦る千織。「そういうことなら、ニュースを見てるだけじゃ意味ないわよね。璃雨、あんたもその麻雀の大会に出てみなさい」
「へっ?」数秒ほどぽかんとした後、璃雨は力強く頷いた。「分かりました。どれだけやれるかわかりませんが、千織様のお望みとあらばベストを尽くします」
「ふんっ! たかが麻雀じゃない。あんたは、この千織さまのメイドなのよ。絶対優勝するに決まってるわ」
千織は璃雨自身以上に璃雨のことを信頼していた。
「でもそうね……あっ、そういうことなら、千織も一緒にその試合に出てあげる。由緒ある三上家の娘たるもの、メイドだけを戦地に送り出すわけにはいかないでしょ」
「まあ、素晴らしいです! 千織様が直々に出場されるのなら、きっと優勝間違い無しです!」
璃雨もまた、尋常じゃないほど千織を信頼していた。
そんな訳で、お互いへの自信と信頼に満ちた主人とメイドの麻雀道が始まったのだった。
……結果から言えば、この自信と信頼は全くの大言壮語という訳でもなかったらしい。
大会が始まってすぐ、大会に参加する千織の身の回りの世話をするには身動きが取れた方が良いという理由で、璃雨はみずから試合を棄権した。しかし千織の方は麻雀に対するずば抜けた才能を発揮し、短時間で様々な役を覚えて連勝を収めた。それにより、多くの雀士の注目を集めるようになったのだ。
「璃雨、麻雀ってすごく楽しいね!」
「試合中の相手の表情、見た?」
「他人の苦痛の上に成り立つ喜びを味わわせてくれるゲーム、最高だわ!」
璃雨がこれほどまでに目を輝かせた千織を見るのは初めてのことだった。
「はい、麻雀はとても面白いですね!」
だって、千織様をこんなに楽しませてくれるのですから。
後半は口には出さず、そっと心の中でつぶやいた。