舞台慣れしてるパートナーと一緒に出たら?
[一ノ瀬空]パートナー……そうか!その手があった、コホコホッ……。
[player]一旦落ち着こう、ね?
[店員]なるほど〜。
[player]店員さんも突然わかったような素振りしないでくれます!?
[店員]失礼しました。でもお客さまのおかげで、何がこの衣装に欠けているのかわかりましたよ。
[player]ん?
[店員]怪物であると同時に、人間の感情や思考力を持つ……そういう所が『フランケンシュタイン』の怪物の魅力。その「人」の部分を引き出せるキャラと言えば……
[一ノ瀬空]創造主であるフランケンシュタイン……、いや、「怪物」が追い求めるパートナー……!
[店員]イグザクトリー!お客さま、その気があればここでバイトしません?私達、気が合いすぎて怖いわ。
[player]ブティックで科学講座を始められたくなかったらやめといた方がいいよ。
一ノ瀬くんの言葉をもとに想像してみる。原作小説では巡り会えなかった「怪物」とそのパートナーが同じ舞台に立ったら、確かに原作にもない新鮮な美しさがあるかもしれない。
しかし、それに従って新たな問題が出て来た。
[player]じゃあ……パートナー役は誰がやるの?
[店員]え?それ聞いちゃいます?
[player]……。
[一ノ瀬空]……PLAYERさん、ボクの友人として、ボクと一緒にコンテストに参加してほしい!キミがいなければ、ボクはきっと『フランケンシュタイン』の怪物なんて選ばなかったし……ボクにとってパートナー役はキミしか考えられないよ。
[player]でも、ほら、コスプレしてパフォーマンスとかうまくできないし……
[一ノ瀬空]ボクも、本格的に演じられる自信はないけど……そもそも、原作ではいい結末にはならなかったし、ボクたちで新しい結末を作るのもいいんじゃないかな。
[一ノ瀬空]だからPLAYERさん、ボクと一緒に参加してよ。ボクの、……一番大切な友達と、ステージに立ちたいんだ!
一ノ瀬くんは顔を上げて私の返事を待っていて、青い瞳には私の輪郭が映っている。
[player]ま、まぁ……断る理由も別にないし、いいよ。
この答えを待っていたかように、一ノ瀬くんは安堵の笑みを浮かべた。と同時に、店員さんが甲高い声で私たちを現実に引き戻した。
[店員]合計三万五千コインになりま~す!
[player]……。
たけぇわ!
今日まで生きてきて、これほど大規模なハロウィン仮装イベントに参加したことがあっただろうか。学校のグラウンドにはありとあらゆるお化けや怪物が集まって、ものすごい人波……いや、鬼波だ。
人混みと壁の間を縫うように、ゆっくりと前へ進みながら一ノ瀬くんの姿を探す。前方を歩くエルフの王子と王女が、なぜか突然花びらと共に踊り出すと、人混みが一気に散開したので、私はバランスを崩した。
[player]危ない——!
次の瞬間、私の腕は細い両腕に掴まれて、なんとか顔と地面との衝突だけは免れた。目の前にはあの見慣れた、肩に小鳥を乗せた「怪物」の姿。
[player]一ノ瀬くん……瞬間移動とか出来るようになったの?
[一ノ瀬空]「怪物」にとっては簡単なことだよ。
映画版にも似たような展開があったな。でもそれって創造主のフランケンシュタインと執事の初対面のことだったっけ。じゃあいっそ、全部混ぜて即席劇にしちゃおっと。
[player]私からすれば、君はまだお世話が必要なお子様ですよ、坊ちゃん。
[一ノ瀬空]そういうキミは?無人島で怪物と暮らす仕事を受けなければならないほど金に困ってるのか?
[player]どうせ私を追い返した所で、次の人が来るでしょう。私じゃ不足?
[一ノ瀬空]怖くないの?
[player]何が怖いっていうの?
[一ノ瀬空]……ボクのパートナーになったら、ここで一生暮らすことになる。今帰ればまだ間に合う。
[player]別荘の間取り図は見たよ。二階の部屋は私が使ってもいいよね、坊ちゃん?
劇中のセリフをごちゃ混ぜにしながら会話していると、なぜか周りに原作ファンや派生作品のファンたちが集まってきた。投票箱用のジャックオーランタンはあっという間に投票用紙でいっぱいになり、優勝候補のドラキュラ伯爵に大差をつけた。
[一ノ瀬空]コホン。こんなことって……始まる前は、ボクたちの優勝確率は5%しかなかったはずなのに。
[player]だから言ったでしょ、なんでも計算で解決できる訳じゃないって。知らない人と友達になれる確率は、何十億分の1しかないって言うし。
[一ノ瀬空]じゃあ、これから麻雀打つ時も、99%勝利するような局面でも安心できなそうだね。
[player]しーっ。ほら集中集中。イベントはまだ終わってないよ。
[学生A]見て見て!新しいステージ写真が出てるよ!
[学生B]はーっ、何この写真尊い。肩の小鳥になりたい。
[学生A]あの夜『フランケンシュタイン』の派生作品を何個か見たけど、執事が一人で全部背負って怪物を庇ったとこで、監督にナイフでも送りつけようかと思ったよ。
[学生B]あっまたCatchatに新しい写真上がって……待って構図神すぎんか?壁紙にするわ。
青露中学校のハロウィンコンテストから既に一週間経ってるのに、未だに話題になっているのは驚異的だ。一ノ瀬くんの『フランケンシュタイン』の怪物は、最後に一票の差で優勝を収めた。
[七海礼奈]これから一ヶ月くらいは、「怪物」くんの話題で持ち切りになりそうだね……。
[七海礼奈]イベントも大成功だったし。そう言えば、結局特別賞品って何だったの?一ノ瀬くんに聞いても教えてくれなかったんだよ。
[player]あー。あれね。どうやら全科目の予想問題集だったらしい。一ノ瀬くん大分へこんでたなぁ……。
[七海礼奈]あはは。一ノ瀬くんが欲しがってたアートブックは今日から一般販売らしいから、買ってあげるのはどう?
[player]たぶん、もう必要ないんじゃないかな。一ノ瀬くんはもっと大事なものを手に入れたから。
[player]ん?
その夜、最終二位だったエルフの王子は、一ノ瀬くんの投票用ジャックランタンの前に来て、自分の票を一ノ瀬くんに入れた。
「エルフの王子」
[“精灵王子”]俺も『フランケンシュタイン』のファンなんだ、友達になってくれるか?
[一ノ瀬空]もちろん、いいよ!
取り合った二つの手が友情の橋を築き上げた。一ノ瀬くんの目に煌めく光は夜空の星よりも輝いている。
友情という「優勝賞品」よりも大事な宝物なんて、無いよね。
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