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幸運な人

雀士: 
categoryStory: 

ドン・ホセは善良な婚約者と彼女の母と、幸せな一生を過ごすはずだった。カルメンがいなければ、彼の生活が狂うことはなかった。
ドン・ホセの言う通り、彼女は魔女だ。でも、そんな魔女に魅入られたドン・ホセは本当に不幸なのか。私はそう思わない。
[player]行け、カルメン。
[サラ]なにを……。
[player]行けと言ったんだ!
カルメンはドン・ホセの肩書き目当てでドン・ホセに近づいたが、広場で花を投げたのは、少なからず本当の愛情があったからだと思う。
カルメンは相手に困らなかったはずなのに、ドン・ホセが不意に見せたクールな一面に惹かれた。ドン・ホセにとって、その愛情は偶然に舞い降りた幸運と言えるだろう。
私だって、数あるサラのファンの中から運良く選ばれた一人の幸せ者だ。
[サラ]……あ、アハハ! それ、同情? このあたしを哀れむっていうの?
[player]断じて違う! 俺にその必要はない。なぜなら……
[player]愛は自由な小鳥、誰かに操られることはないからだ!
カルメンは鳥だ。裏切りは許せないが、それは彼女の生まれ持った気質だ。もしそんな彼女がドン・ホセの鳥籠に入ったら、彼女は彼女でいられるだろうか。そしてそんな彼女を、ドン・ホセは愛し続けられるのか。
私なら愛せない。ドン・ホセと似ているとしても、私は私だ。サラが言ってたように、「私」を見せよう。
そして、私の目の前にいるのはサラだ。私はそんな彼女を、自由にさせてあげたい。
[player]愛は流れ者と同じ、法であろうと縛れない! 君は自由だ、カルメン!
観客席から不穏な声が聞こえた。こういうアドリブはオペラではまずやらないだろうから仕方ない。
だがサラの顔には一片の迷いもない。開演前のやり取りもあってか、サラは完璧に私のアドリブに合わせてくれた。
……いや、あれがなくても、サラはきっと私がやりたいことをわかってくれただろう。「自分を見せること」を、二人で一緒に考えてきたのだから。
そして何より、サーカスで何年もやってきたサラはアドリブに長けている。そんなサラがどう応えてくれるのか、今の私には期待しかない。
[サラ]傲慢、なんて傲慢なやり方かしら!
サラは指を私の顔と首に滑らせ、私の顎を持ち上げた。彼女の目は愛に輝いている。
[サラ]行けって、どこへ? あたしに指図する資格なんてあんたにはないわ!
[player]お前が俺を愛さなくても、俺はお前に死んで欲しくない。お前に自由を返すまでだ。
[サラ]その自由だって、一度も奪えたこともないくせに、どの口が言うの?
[サラ]行けって言ったわね? じゃあ、あたしは行かないわ。さぁ、手を取りなさい!
[player]情けのつもりか、カルメン。
[サラ]無礼を働いたのはあんたが先。やられたからやり返しただけよ。
私が固まったのを見て、サラは私の手を取った。
[サラ]あたしの好きなものはね、歓声と、勝ち組。
[player]だが俺は敗者だ。君のせいで、俺はなにもかも失った。
[サラ]いいえ、あんたの銃にはまだ鎖が繋がってるでしょう? その鎖は、あたしの魂の鎖だと言ったはずよ。
[player]このふしだらな女め、まさか俺が勝利者だとでも言うつもりか?
[サラ]なにか問題でも? 愛は自由な風、今あんたの方に吹いているってだけ。
[サラ]ちっぽけなプライドは捨てなさい、少なくともこの瞬間は、あんたは愛の勝者よ。
[サラ]歓声を上げな! 勝者よ!
民衆役
[民衆役]万歳! ブラボー! 勝ったぞ! 勝者ドン・ホセの栄光だ!
バラの花びらが舞い降りて、私達への祝福を表した。
観客たちの歓声の中、「Soul」特別公演「カルメン」は終幕となった。
観客投票の結果は、相変わらず二人の引き分けだった。
しかし、最後のアドリブは事前に相談してなかったから、共演してくれた「Musae」のメンバーたちは反発した。
メンバーA
[メンバーA]そっちが主催とは言え、こういう原作を壊すような改変は許せないわ。
メンバーB
[メンバーB]そうよ。だから今回の勝負は無効よ!
[オレヴィ]はいはい、みんなの気持ちはわかる。サラちゃん達のアドリブは確かに事前に言ってくれてなかった。でも観客にはウケた。それだけでこのショーは成功したと言えるよね?
[オレヴィ]それに、あの人を選んだのはサラちゃんだ。私が観客の心を掴んだとしても、彼女の心を手に入れられない以上、今回も私の負けだ。
そんなオレヴィさんの話を聞き、メンバーたちの反発も収まった。
[サラ]素敵な演技だったわよ、オレヴィ。
[オレヴィ]お互いにね。あのアドリブには勝てないな。
[player]かばってくださりありがとうございます。内心ヒヤッとしました……。
[オレヴィ]はは、気にしないで。それにしても一ヶ月しか練習してないのに、ここまで出来るとは。君、なかなか才能あるよ。
[player]そんなことないですよ……。
[オレヴィ]今後また共演するチャンスがあったらよろしくね。
[player]いやいや、オレヴィさんと何度も共演なんて、私には出来ませんよ。
[オレヴィ]何言ってんの、今日は君たち二人に負けたんだよ。雀士なら勝ち逃げなんてしないよね?
[player]勝ち逃げなんて、私ただの助っ人なんだけど……。
[サラ]そうよ、二人いるとこっちがより有利になるわよ。
[オレヴィ]難しい方が挑みがいがあるってものさ。じゃ、次もよろしくね。
[player]って、ま、待ってくださいよ! オレヴィさん!?
断るチャンスもくれないまま、オレヴィさんはサーカスを去った。
[サラ]最初で最後の共演、じゃなかったみたいね、あなた。
[player]ま、まだ続くのか……。
でもまぁ、今日勝てたのは事実。これでサラが「Soul」からいなくなる心配はなくなった。今後のことはまた後で考えよう。
[サラ]そう言えば、あなた。あの時の答え、考えてくれた?
[player]あの時って、何?
[サラ]もう、誤魔化さないで。勝ったら「Soul」に入るって、言ってたでしょう?
[player]そ、そこまでは言ってないかと……。
本当に本気だったんだ!? どうしよう……。