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ヒーリさんに協力して仔チーターを助け、包囲網を突破する

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私はチーターの潤んだ瞳とヒーリさんの意志の強い眼差しを見てしまっては、私も腹をくくるしかない。
[player]……オウム、この檻を開けてくれないかな?
[オウム]はぁ……シジュウの兄貴が言ってた通りだ。君と一緒だと危険だらけ。
オウムはため息をついて、引き返して檻を開けてくれた。それだけでなく、残りの檻まで全て。しかし、中にいた動物たちは長いこと閉じ込められていたせいで、なかなか出てこようとしなかった。
[player]この子たち、私達のことを、自分たちを閉じ込めた奴の仲間だと思ってるのかも。
[オウム]かもね。でも少なくとも、こいつらは自由の身になった。僕達にも余裕がない、逃げられるかどうかまではとても見届けられないよ。
ヒーリさんは、なぜ手を貸してくれたのか理解できないといった様子で、あっけにとられながら私達の行動を見ていた。それから、近づいてくる外の足音を聞くと、ヒーリさんは唇を噛んで仔チーターを私の胸元に押しつけ、鞭を持って前に飛び出した。
[ヒーリ]ついて来て。
檻を開けるのに時間を取ったせいで、鳥たちのいる倉庫の扉付近まで戻った所で、パトロールしていた警備員と鉢合わせてしまった。ヒーリさんは私をオウムの方へ軽く押しやった。
[ヒーリ]PLAYER、逃げて。
[player]ヒーリさん……
[ヒーリ]私は大丈夫、信じて。
抱きかかえたチーターは、呼吸が少し弱い。今はこの子を連れてこの場を離れるのが最善のようだ。オウムは足を引っかけて警備員を転ばせると、私の襟を掴んで外へ飛び出した。
金属がぶつかる音やうめき声、怒声……そして鞭のうなる音が背後から聞こえてきた。
まるであの日に戻ったようだ。強い日差しが照りつける路地で、ヒーリさんは一人でシジュウカラたちと渡り合っていた。でも今回は、彼女は一人じゃない。
来た道を引き返すと、扉ロックは全て開いたままだったので、一番外側の部屋までスムーズに辿り着くことができた。出入口を守っていた若い警備員とばったり行きあったが、その警備員は、朝怪談のせいで一睡も出来なかったと話していた「ポチ」だった。
私達を見ると、彼は咄嗟に無線で連絡を取ろうとした。その時、彼の頭に棍棒が容赦なく振り下ろされた。
ドゴッ!
若き警備員はゆっくりと倒れた。その後ろには、シジュウカラが立っていた。
[シジュウカラ]こっちじゃ、ついて来い。
私達が倉庫を飛び出すと、ヒーリさんも居残ることはせず、警備員を振り切り、シジュウカラが路肩に停めていたバンに皆で乗り込んだ。
[player]シジュウ、あんまりいじめちゃダメだよ。ポチの奴、君のせいで踏んだり蹴ったりじゃないか。
[シジュウカラ]わかっとらんのう。こういう時ゃあ弱いものいじめに限るぜ。
[シジュウカラ]金持ちだってカモからなんべんも搾取するじゃろ、それと同じじゃ。
バンが曲がり角に差し掛かった時、パトカーとすれ違った。
[シジュウカラ]ほれ、サツが来よった。安心せぇ、後はあいつらに任しときゃええ。
ヒーリさんは私から仔チーターを受け取り、シジュウカラにある住所を伝え、私達を送らせた。
シジュウカラは私達を目的地まで送り届け、去っていった。そこは動物病院で、ヒーリさんが慣れた様子で中に入ると、眼鏡をかけた女性の獣医が私達を出迎えた。ヒーリさんは仔チーターを彼女に預け、基本的な健康チェックをするよう頼んだ。
[獣医]軽いストレス反応と栄養失調が認められます。あなたたちがこの子を連れてこなかったら、命に関わったかも。
[獣医]もう一度しっかり検査をした上で処置しますから、あなたたちは外で待っていて。
私とヒーリさんは待合室の長椅子に座り、仔チーターの治療が終わるのを待った。その間、親切な看護師が温かいタオルを持ってきてくれて、身体についたホコリや汚れを拭けるようにしてくれた。
[player]あのチーターを心配してるのは、モヒートが理由ですか?
ヒーリさんは頷いたかと思えば首を横に振ったりもしていて、はっきりとした答えを返さなかった。
しばらくして獣医が来て、チーターは無事ではあるが、数日間の入院と経過観察が必要だと伝えた。ヒーリさん見るからにホッとして息をついた。疲れた顔に安堵が浮かんでいる。
[ヒーリ]PLAYER、さっきのあんたの質問、どうやって答えたらいいかわからない。時間が許すなら、連れて行きたい場所があるんだけど。
[player]いいですよ、私はいつも暇人ですからね。
「連れて行きたい場所」が「幾度春」のある通りだとは予想していなかった。そこでは今日、何か大事なイベントがあるようで、道の両端に人がずらりと並んでいた。
[ヒーリ]今日は「幾度春」の「太夫道中」があるから騒がしい。こっち。
路地の間を縫って歩き、再び大通りに出ると、なんとそこは絶好の「太夫道中」鑑賞スポットだった。ここからなら通りがよく見える。
[ヒーリ]私達が「幾度春」に行った時、ずっと屏風の向こうにいたから姿が見えなかったよね。今、あそこにいるあの人が東城玄音。
彼女が指す方を見ると、豪奢な着物に身を包んだ女性がゆっくりと歩いており、人々の視線を一身に集めていた。
[ヒーリ]あんたが私とずっと一緒にいた理由、予想はついてる。私が何をしてるか知りたいんだよね? あんたはそれを、親しい奴から頼まれたんだ。サラ? ライアン? それとも他の誰か?
[ヒーリ]いや、そう固くなるな。もしあんたをシメるつもりなら、こんな所に連れてこない。
[player]じゃあ、ここに連れてきたのは……
[ヒーリ]あんたの質問に答えるため。ここ数日一緒にいて、あんたになら少しは私の話をしてもいいかなって。
[ヒーリ]……私は、八歳くらいまでジャングルの虎に育てられた。シドが私を見つけて、人間社会に連れ戻した。
[ヒーリ]でも、私は今でも変わらず、あの虎達も私の家族だって思ってる。
[ヒーリ]だからショーがない時は、よくジャングルに帰って、「家族」と一緒に生活してる。その習慣のお陰で、密猟者が入り込んでることにも気付いた。
[ヒーリ]ここ数年、私はずっといろんな密猟者と戦ってきた。でも私だけの力じゃ防ぎきれない悲劇が何度も起きた。
[player]ヒーリさんは、もう十分よくやっていると思います。
[ヒーリ]いや、まだまだだ。「Soul」が分裂した時は「家」を守れなかったし、今回も罪のない動物達を守り切れなかった。
ヒーリさんは通りを歩く東城玄音に視線を向けた。
[ヒーリ]PLAYER、あんたから見て、東城玄音はどんな人?
[player]うーん……華やかで、優雅で、綺麗な人……ですかね。
ヒーリさんは頷いた。
[ヒーリ]私もそういう印象を持ってる。ただ……
[ヒーリ]あの人と接する度、強い野獣だけが持つ気配を感じる。獰猛で、力強い……
[player]つまり、東城さんは見た目とちょっと違う一面があるかもしれないってこと?
[ヒーリ]確かに矛盾してる、でも私の直感は外れない。これも、私があの人と接触した理由の一つ。野獣は野獣と行動を共にすべき、でしょ?
彼女は笑いながら私を見た。
[ヒーリ]よし、これであんたとの間に秘密はなくなった。でもこれは私達だけの秘密、いい?
[player]「Soul」の人にも話しちゃダメってことですね?
[ヒーリ]そう。今回のタンチョウヅルの件もそうだけど、私がやることには常に危険が付きまとう。「Soul」の団員達が知った所で、あの人たちを危険に巻き込むだけ。
言いたいことはわかったが、私はそれが正しいとは思えなかった。
[player]ヒーリさん、あなたが一人でそれを背負う必要はないと思いますよ。ほら、私がいるじゃないですか。
ヒーリさんはしばらく私を見つめ、こう呟いた。
[ヒーリ]あんたの言う通りかも。ここ数日関わっただけだけど、相棒がいるっていうのはなかなかいい気分だ。
突然、私のスマホが振動した。見ると、先日連絡先を貰った警官からだ。
[警官]PLAYERさんの携帯ですか?
[player]はい、そうです。
[警官]あぁ、ちょっと連絡したいことがあっただけだから、緊張しないで。通報してくれた野生動物の密売商のアジトは制圧しました。まだ数人が逃走中だけど、奴らの居場所は特定出来てるから、もうすぐ逮捕できるはずです。
[警官]あの倉庫は、余罪の証拠が残されているかもしれないので封鎖してあります。中の動物達は全て野生動物の支援機構に引き渡しました。チベットスナギツネ数匹はひどい病気だったみたいで、我々が現着した頃には手遅れでしたが……あぁ、あなた達が言ってた若いタンチョウヅル二羽は無事でしたよ、ご安心ください。
[警官]そうそう、「三青斎」で保護されていたツルも、我々が保護した動物達と一緒に支援機構に預けました。他に確認したいことが無ければ、今日はこれで。後日、一飜市の治安維持貢献を称して感謝状をお贈りしますので。
[player]え? 感謝状? ……なら、それは「Soul」に贈ってくれませんか?
[警官]「Soul」って、あのサーカス団ですか?
[player]はい、今回のことは私一人の功績じゃなくて、「Soul」の人達の助けあってこそでしたから。
[警官]ははっ、なるほど。わかりました。
電話が切れると、ヒーリさんの問うような眼差しを感じ、今の電話の内容を彼女に伝えた。
ヒーリさんは手で目元を覆い、後ろの壁にもたれかかった。彼女の表情は見えなかったが、口角が上がっているところを見るに、きっと喜んでいるのだろう。
しばらくして、ヒーリさんは自分の気持ちに整理がついたらしく、私に向かって手を伸ばし、明るく誠実な笑みを浮かべた。
[ヒーリ]PLAYER、あんたの相棒になれて嬉しいよ。