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やっぱりすぐさま後ろへ引っ込む。

雀士: 
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やっぱりすぐさま後ろへ引っ込む。
[player]うわぁ~~!
ひとりでに大声が出てしまい、私は一ノ瀬くんの手を取って素早く店の入口まで飛び退いた。「お化け」にこっちを追ってくる様子は無く、その場で不気味な笑みを浮かべながら私たちを見続けている。
[店員]お、お客様?大丈夫ですか?驚かせてすみません……。
[player]ま、待って。ちょっと落ち着かせて。
[店員]は、はい。本当にすみません。改めまして、「魑魅魍魎」へようこそ。
[一ノ瀬空]あ、PLAYERさん?
[player]一ノ瀬くん!君も衣装を買いに?
骸骨の店員に奥の方へ案内されると、試着用の衣装を抱えた一ノ瀬くんに遭った。
[店員]あら、お二方はお友達だったんですね。反応は正反対だったのに、本当に奇遇ね~。
[player]正反対……って、一ノ瀬くんもあんな風に接客されたんだ……。
[店員]そうなんです。幽霊の仮装をしたんですけど、「幽霊の存在は証明されていない」って、全然驚いてくれませんでした。
[店員]そうしたら、現実にいるものに仮装した方が効果的だってアドバイスまでしてくださって……お陰様で、お客様の良い反応が見られました。
科学を信仰しているから、幽霊にも全く動じない、か……言われてみたら確かに一ノ瀬くんっぽいな。
[一ノ瀬空]七海さんからおすすめされたの?だとしたら、「店員に気をつけて」って言われたはずだけど……。
[player]物理的に気をつけなきゃいけないなんて、誰が思うかー!
[一ノ瀬空]でも、ここで会えてよかった。ちょうど、どうしたらいいか悩んでたから……七海さんからコンテストのこと聞いた?
[一ノ瀬空]これまでのデータによると、吸血鬼、魔法使い、キョンシーの三つの勝率が高いんだけど、PLAYERさんはどう思う?あ、いや、七海さんが、悩んだらとりあえずキミに聞けばいいって言ってたから、その……
[player]そこまで言われちゃ断れないなぁ。いいよ、私も衣装を選びたいし、お互い助け合おう。
一ノ瀬くんは安心した様子で、店員さんに試着室へ連れられて行った。自分も服選びに関心を戻して、店員さんの解説に集中するようにした。
[店員]こちらの商品は大錬金術師ニコラスとコラボしたもので、よく売れております。お客様も試着されてはいかがでしょうか。
[player]そうですね……一回試してみます。
綺麗な衣装がいっぱいありすぎて一つに絞れないので、とりあえず店員さんのおすすめを信じて試着してみよう。
[一ノ瀬空]PLAYERさん、どうかな?ボク、一応さっきの服を着てみたんだけど……
ちょうど自分の衣装を着終わったタイミングで、一ノ瀬くんの呼ぶ声がした。試着室のドアを開けると、目の前には可愛さとエレガントさが見事に調和した幼い吸血鬼がいた。濃いブラウンの髪色は一ノ瀬くんの肌の白さをより際立たせ、青く輝く瞳は海のような深みがある。これはマジで似合ってるわ。
店員さんがテンションブチ上げで、ぜひ記念写真を!と暴れ出したことも、私の結論を証明している。
[player]似合ってるよ、小さなドラキュラさん。
[一ノ瀬空]コホッ。そ、そっちもね。魔法使い殿。
でも一ノ瀬くんは、褒められたのにまだ安心できないようで、繰り返し鏡の前で全身をチェックしている。特に大きなマントに付いた複雑な装飾が気に入らないようだ。
[店員]あ、お客様!お気をつけ下さい……!
[player]危ない——!
一ノ瀬くんがうっかりマントを踏んで倒れそうになったので、私は一歩前に出て彼の体を支えた。
[一ノ瀬空]あ、あり、がとう……ゴザイマス。……この服はとても素敵だけど、安全面を考えるとちょっと心配だな……。
[player]この装飾は尖ってて危ないよね。特にハロウィン当日は見物客も多いだろうから、こんな服を着て歩き回るのはちょっとね……。
[一ノ瀬空]うん、その通りだよ。
一ノ瀬くんもマントのことに気がついたようで、瞳からは残念そうな気持ちが読み取れたが……なぜか少し安堵したような表情を見せた。
まるで「この衣装」じゃなくて良かったみたい……でも、あれ?一ノ瀬くんはこういう服を買うために来たはずだよね?
[一ノ瀬空]ま、まぁ、とりあえず他のを見てみよう。この衣装は……残念だけど。
[店員]他でしたら、お客様はキョンシーなどいかがでしょう?装飾も少なめですし、動きやすいはずですよ。
[一ノ瀬空]うん、一応それも試すつもりだけど……。
[player]ん?
[player]ん?
[一ノ瀬空]あ、いや、とりあえず試してみるよ。
「けど」?なんか引っかかる言い方だなぁ……詳しく聞くよりも先に、一ノ瀬くんは衣装を持って試着室に入ってしまった。
そこで私もこの隙に私服に着替えた。店員さんが勧めてくれた他の衣装は丁重にお断りした。
そもそも自分が着るものにそこまでこだわりはないし、今は一ノ瀬くんの衣装を選んであげよう。
[一ノ瀬空]これは……どうかな。
試着室のドアが再び開き、小さなキョンシーがゆっくり出てきた。歩くリズムに沿って揺れる額に貼られたお札は、無性に剥がしてみたくさせる魔力でもあるかのようだ。
[player]さっきのと比べると少し地味だけど、とても似合うよ。
[一ノ瀬空]本物のキョンシーなんていないし、跳んで歩くのは体に負担が掛かるから、先生は許してくれなさそう……。
[player]まぁまぁ、一応これはキープにしといて、他のも試してみようよ。
[店員]でしたら、魔法使いの仮装はいかがでしょうか。こちらのお客様は先ほど錬金術師の衣装を試されてましたから、二人で永遠のライバル感を出してみるのも……
[player]ライバルって言っても身長に差がありすぎない?
[店員]いえいえ、千年の時を生きる魔法使いと超絶天才錬金術師のコンビなんて、注目を集めること間違いなしです!
今度は一ノ瀬くんは何も言わずに、勧められた衣装を持って試着室に戻った。しかし五分もしないうちに試着室のドアが再び開かれた。
[player]早いね……って、どうしたの?
試着室から出てきたのは千年を生きる魔法使いではなく、いつもの一ノ瀬くんだった。彼は衣装を店員さんに返して、他の衣装の勧めも断った。
[店員]お客様、もしかして魔法使いの衣装はお気に召しませんでしたか……?
[一ノ瀬空]いや、とても素敵な衣装だよ。
[店員]ではサイズが合わなかったとか……。
[一ノ瀬空]ち、違うんだ。服の問題じゃなくて……。
その後どう聞かれても、ノーとしか答えない一ノ瀬くん。まだ時間はあるし他のお店も見てみようと提案したら、一ノ瀬くんはやっと肯定的な答えをしてくれた。ただ店を出る前に、彼はパッと店の隅の方を一瞬振り返った。
[店員]あれは……なるほど。またお会いしましょうね、お客様。
[player]……?
商店街の中で最後のブティックから出てきた時には、月は既に太陽に代わって空の支配者となり、人工のライトよりずっと柔らかな光を放っていた。
[一ノ瀬空]コホッ。もうこんな時間だ……。早く決めなきゃいけないのに……。
十月下旬になって、夜も肌寒くなってきた。私にとってはちょうどいいくらいだけど、一ノ瀬くんの体には少し障りそうだ。下がった気温も服が見つからない現状も、一ノ瀬くんをイラつかせている。
結構良い服が沢山あったのに、全部、一ノ瀬くんは色々な理由をつけて断った。こんなにお店を回ったのに、結局一着もいいのが見つからなかったなんて。
あの時一ノ瀬くんは、どうしてちょっと安心したんだろ。
[player]……一ノ瀬くんさ。
もしかして、あれなんじゃないか?と私は思った。